第37話 最期の晩餐
緑川の死体は、桃瀬たちの死体を処理した人間たちと同じような格好をした奴らが、あっという間に回収していった。
「――青木浩一。手当は必要か」
そう聞いたマスクの下の男の声が、いつも響いてくる謎の人物の声と少し似ていた気もしたが、青木は首を横に振った。
肝心の謎の声は、今日は何も響いてこなかった。
「…………」
「――――」
青木と赤羽は、どちらからともなく街灯の灯りがわずかに入る神社の境内に座った。
「悪かったな。アイツの正体にもっと早く気づいてれば」
赤羽が頭を掻きながら言う。
「いや、お前は何一つ悪くないよ。助けてくれてアリガトな」
青木はフッと笑った。
「今何時」
「7時になったとこ」
赤羽がスマートフォンを確認しながら言う。
「白鳥、今頃ドキドキしながら待ってんだろうな……」
青木は空を見上げた。
「行ってやれよ。お前が」
赤羽は青木を見つめた。
「あいつにはもう、お前しかいないんだからさ。行ってトドメをさしてこい」
「――――」
青木は赤羽を見つめた。
「お前は?」
「ん?」
「お前は今夜、何をして過ごすんだよ」
「――――」
赤羽はふうっと息を吐いた。
「別に、なにも」
「何もって……」
「あー。コンビニでなんかうまいものでも買おうかな。最期の晩餐ってやつで」
赤羽はカラカラと笑った。
「……恋人に連絡は取らないのか」
「ああ」
「家族には?」
「いーんだよ」
赤羽は青木を振り返ると、その頭に手を置いた。
「お前は自分のことだけを考えろ。絶対に家に帰って、絶対にお袋さんと妹に会うんだぞ」
「…………」
「それが俺の唯一の願いだ」
「……赤羽」
青木はその手をギュッと握ると、赤羽の胸に顔を寄せた。
「青木?」
そのまま背中に腕を回し、赤羽を抱きしめる。
厚い胸に耳を押し当てる。
トクッ。トクッ。トクッ。
確かな鼓動が聞こえる。
明日には止まってしまう鼓動が――。
「……青木。感傷に浸ってるとこ悪いんだが」
赤羽の声が身体を伝わって響いてくる。
「俺は、その、ほら。マジなそっちの人間だから」
「………?」
青木は赤羽を見上げた。
「男に抱きしめられると、勝手に身体が反応しちゃうんだよ」
赤羽は細く長く息を吐きながら、うんざりするように片手で顔を覆った。
「――――」
青木は赤羽の硬く主張してくる股間を見下ろした。
「……こんなときに悪い」
赤羽が今まで聞いたことのないようなバツの悪そうな声を出す。
「ふっ……」
青木は笑った。
笑いながら、赤羽のベルトに手を掛けた。
「……な……おい……!?」
目を見開く赤羽に微笑みながら、青木は自分のベルトも外した。
「ご馳走とはいかねえけど、最後の晩餐?……付き合ってやるよ」
◇◇◇◇
「お前、こんなことしてる場合じゃねえだろうが。早く白鳥のところに行かねえと……!」
青木の口の中で、暴力的に勃ち上がったソレとは裏腹に、赤羽は青木を諭すように言った。
「いいから感じてろって」
青木は舌を這わせながら、まじまじと赤羽のソレを見た。
(……でけえ。それになんか、熱い)
その硬さも大きさも熱でさえ、自分がそうさせているのだと思うと、自分の股間も熱くなるほど興奮した。
「ああ……もう……」
赤羽が熱のこもるため息をつき、青木の髪の毛を撫でる。
その息遣いも声も、自分の舌の動きに合わせて僅かに上下する腰も、全部が艶めかして眩暈がする。
(――おかしいな。俺、ゲイじゃなかったはずなのに)
青木は赤羽を見上げた。
(今、俺……)
「お前が欲しい……」
気がつくとそう囁いていた。
「は……。馬鹿言ってんなよ。ここで俺とシてどうする。白鳥の前で勃たねえぞ」
「それでもいい。お前をちゃんと、身体で覚えていたい……」
「――――」
赤羽は迷ったように眉間に皺を寄せると、
「……俺は知らねえからな」
そう言って青木の両腕を掴んで、自分の上に乗せた。
「――あっ」
赤羽の大きな手が、スラックスの中に入ってきて、ソレを撫でおろしながら臀部に伸びていく。
「赤羽……!」
昨日黒崎にさんざん弄られたそこが、ヒクヒクと痙攣をする。
「俺に抱きついてケツ浮かせて」
耳元で赤羽の低い声が響く。
それだけで股間に集まった熱が爆発しそうになる。
「……ァアッ……!は……あぁッ……!」
青木は赤羽のがっしりとした首に腕を回しながら、優しくかつ的確に刺激してくる赤羽の指の愛撫に耐えた。
「意外とほぐれてるな」
赤羽が青木のズボンを脱がしながら囁く。
「――時間もないし、挿れるか」
赤羽はまだ青木の唾液が渇いていないソレを、入り口にあてがった。
「痛かったら言えよ。やめるから」
どんなに痛くても、
どんなに苦しくても、
絶対に言わない。
そう決めた青木の中に、
赤羽が入ってきた。
「……ぁあッ!!!」
自分の口から出たとは思えない方なあられもない声が境内に響く。
赤羽が突き上げるたびに、身体の中心の一番熱くて痛い場所が擦られ、全身が激痛と快感に痺れていく。
「あ……赤羽……!俺……」
激しい抽送に耐えながら、青木は赤羽を見つめた。
「お前のこと……絶対忘れない……!絶対…絶対……!一生忘れない……!」
「――ああ」
赤羽は口の端を上げて微笑んだ。
「忘れさせるかよ……!」
2人の激しい息遣いと、低い喘ぎ声は、杉の葉の向こうにある星空に消えていった。
◆◆◆◆
「……はい」
呼鈴を鳴らすと、扉の向こうの白鳥は、緊張した声で応対した。
「白鳥?俺」
短く言うと、彼は慌てて解錠し扉を開けた。
「青木!?なんで……」
「緑川先輩は来れなくなった」
驚いた顔をしてこちらを見上げる白鳥を抱きしめた。
「――青木?泣いてるの?」
白鳥が戸惑った声を出す。
泣いてはいけないと思うのに、
自分が泣いては、抱いてくれた赤羽にも、これから抱く白鳥にも失礼だと思うのに、
熱い涙が止まらなかった。
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