第38話 旅立ちの朝


朝陽が白鳥の部屋の薄い空色のカーテンから透けて入ってくる。


青木は裸の上半身を起こした。


隣では枕を抱きしめるようにして白鳥が白い背中を見せて眠っている。



昨夜は赤羽が自分にやってくれたように、白鳥を抱いた。


赤羽が自分との行為中に青木ができるだけ達しないように考慮してくれたおかげで、ちゃんと自分のソレは硬くなった。


それどころか、身勝手にも赤羽の最後の相手が自分であるという事実に興奮し、白鳥の中に何度も何度も欲望を吐き出した。



青木はその金色の髪の毛を撫でた。



彼は、ちゃんと感じてくれただろうか。


青木の身体に、顔に、声に、


緑川の幻想を見ていたとしても。




「…………」


ベッド脇のデジタル時計を見つめる。


もうすぐ6時。

ジャッジの時間だ。



今頃赤羽はどこにいるだろう。

何をしているだろう。


おそらくは自分と同じように、

ベッドに座ってその時を一刻一刻と待っているのではないだろうか。



身体が震える。


今すぐ赤羽のところに走って行って、抱きしめたくなる。


最後のその瞬間を、一緒にいてあげたいと思ってしまう。



それなのに――。


身体は動かない。


動けない。



そのジャッジを確実なものにするために、


今は白鳥のそばから動けない。




時計の数字が変わった。


ジジッ。

骨に不快音が響く。



『――約束の時間だ』



謎の声は、いつもより一層低く不気味に感じた。



『今回の死刑執行は――』



静かに目を閉じる。




『赤羽英彦』




閉じた青木の両の目頭からは、熱い涙が流れ落ちた。



『よって、実験の成功者は青木浩一とし、死刑並びにすべての罪状を取り消す。偽名と新しい戸籍を準備し、第二の人生を歩んでもらう』


ちっともめでたい空気を醸し出さないまま、男の声は淡々と続けた。


『外に車を準備している。まずはこの学園と被験者白鳥結弦の前から立ち去ってもらおう』



プップと外で軽快なクラクションが聞こえた。


立ち上がり窓から見下ろすと、タクシーが一台停まっており、こちらを見下ろしていた。




『――素敵な人生を』



ブツッと今までで一番乱暴な音がして、謎の声は消えた。



(終わった……これで本当に……)


「あっ!!」


ベッドに寝転んでいた白鳥が急に飛び起きた。


「タブレット!どうなった!?」


彼は傍らに立っている青木には見向きもせず、テーブルの上に置いてあったタブレットをとった。



「………やっっっったあああああ!!」


白鳥は真っ裸のまま、ガッツポーズをとった。



「クリア!!!!」


「は?」


青木は意味も分からず白鳥をただ見つめた。



「あはは。意味わかんねえよね」


白鳥はカラカラと笑うと、裸のまま青木の肩に手を掛けた。



「もうクリアしたからネタバレしても大丈夫っしょー!」


鼻歌を歌いながらタブレットを操作し、ある画面を開いた。




「……これは……」



――――――――――――――――――――――



【男子校でノンケの男を落とせたら100万円!」】



これはBLに対する極秘実験です。

挑戦者の皆様には、ある高校へ入学いただき、クラスメイトのノンケを一人落としてもらいます。


10日以内に次の項目をすべてクリアできれば100万円。


どしどしご応募ください!




☑ 自己紹介


☑ 一緒にご飯を食べる


☑ 手をつなぐ。


☑ ハグ


☑ キス


☑ フェラ


☑ セックス


――――――――――――――――――――――


「入学から今日でちょうど10日目!」


白鳥は嬉しそうにピースサインを作った。


「え……じゃあ、俺とのことは……」


「隣の席が一番絡みやすいからそいつにしようって初めから決めてたんだよね!」


そう言いながら白鳥はベッドにダイブすると、タブレットを弄りながら足をパタパタと動かした。


「こんなに頑張ってアピールしてんのに、青木は奥手でなかなか手を出してこないし。もしかして緑川の方が手っ取り早いかと思って勝負をかけようとしたらなぜか青木が来るし。でも結果オーライだったなー」


白鳥は独り言ともつかない口調でそう言うと、タブレットをまた操作し、


「よっしゃ!入金確認!!」


そう言うと立ち上がった。


「ってことで、俺、この学園から消えるから!引っ越し準備があるからさっさと出て行ってくれない?」


白鳥は何の悪気もない顔で青木を見つめた。


「……このためにお前は俺とずっと接してきたのか?演技して、嘘をついて……?」


「だからそうだってば。理解力大丈夫そ?」


白鳥は楽しそうに笑った。



「俺はまるきりのノンケだから。キスやフェラは我慢できても男相手に勃たないしケツになんか突っ込めないじゃん?だから抱いてくれる奴じゃないとダメだったんだよね」


青木は呆然と白鳥を見下ろした。


「あっとそれと。俺、20歳だから。ため口使うの、もうやめてくれる?」


20歳のはあっけらかんとそう言うと、青木が脱いだ服を雑に差し出した。


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