第32話 いやなら殴れ


「あ……や……!」


白鳥がさすがに緑川を押し返すが、彼は構わずシャツのボタンを外していく。


「ちょ……こんなところで……!」


「ホームルーム終わるまでは誰も来ねえよ」


緑川は低くそう囁くと、興奮を散らすように深く息を吐いた。


「だからって……あッ……!」


白鳥の唇と同じ桜色の胸の突起が、外気に触れたことでぷくりと勃ち上がる。



「はあ……」


緑川がまじまじとそれを見ながら大きくため息をついた。


「白鳥――お前、これは反則だろ」


「反則って……?アッ!」


緑川がその突起の一つに唇をつける。

チュッ吸引音がして、さらにいやらしい愛撫の音が響き渡る。



「あ……ああッ!」


白鳥の足が開き、もう一つの緑川の手が白鳥の股間を包んで

擦り上げる。


「だ……ダメって!先輩!!」


「いやなら殴れって言ったろ?」


緑川が白鳥の胸元から睨み上げる。


「………ッ」


白鳥は自分の口を両手で塞ぎ彼から目を逸らすようにそっぽを向いてしまう。


「――続けるぜ?」


緑川がまた突起を吸う。

今度は激しく、強く。


「……んんッ……!ふ……うッ!」


白鳥の腰がガクガクと震え、緑川に弄られている股間が少しずつ形を帯びていく。


(――何だこれ……)


青木の膝がブルブルと震える。


(俺は今、何を見せられているんだ……!)


一方は背の高い黒髪クールなイケメン。

もう一方は華奢な金髪美少年。


刺激的なセリフ、

艶っぽい音。


興奮を抑えられない強引な攻めと、

戸惑いながらも感じてしまう受け。


今まで何十何百と読んできたBL漫画のシチュエーションが、目の前で実践されている。



緑川のもう一つの手が、白鳥のベルトにかかった。


「先輩……ッ!」



そのとき、


キーンコーンカーンコーン。


予鈴が鳴った。



「い、いいかげんにしてください!」


白鳥が緑川を突き放す。



(ナイスタイミング!)


青木は拳を握った。


危機一髪。

本当にギリギリだった。


(いやこれ、ギリギリアウトじゃね……?)



「白鳥」


立ち去ろうとする白鳥に、緑川は低い声で言った。


「改めてちゃんと話がしたい。今夜8時に部屋に行くから待ってろ」


(……なッ!)


青木は目を見開いた。



(ダメだ……!白鳥!断ってくれ……!)


しかし――。



「わかりました」


白鳥は小さな声で答え、涙目で振り返った。


「俺も、このまま流されるのは嫌なので」



(馬っっっ鹿野郎……!!)


青木は白鳥を睨んだ。



(お前、口だけ立派な流され野郎じゃねえか!!そのままメス堕ちするだろうが!)



「……(おい)」


赤羽が青木の腕を引く。


「……(行くぞ)」



白鳥と緑川がこちらに向かって歩いてくる。


青木と赤羽は足音が立たないように廊下を駆け抜けた。



(やばいやばいやばいやばい……!)


赤羽の全速力について行くのが辛くて肺は燃えるように熱いのに、


(どうする……俺!どうする……俺……!!)


背中は冷水を浴びたかのようにひんやりと冷たかった。


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