第27話 行きつく先が天国でも地獄でも…


「高校に上がった途端、黒崎が頭の悪い上級生に目をつけられてさ」


桃瀬は青木の髪の毛を掴んで、ソレを喉奥に挿し入れながら話を続けた。


「というのも黒崎が背が高くてイケメンでカッコよすぎたのが悪かったんだけどさ」


「……桃瀬……!」


桃瀬が発した言葉に、黒崎の手が止まる。


(いやだから!イチャつくのか襲うのかどっちかにしろっつのっ!!」


脈打つ体の熱と、乱暴に突っ込まれた桃瀬のソレのせいで言葉が発せない青木は、せり上がってくる吐き気をこらえながら目を見開いた。


「黒崎は喧嘩も強かったから、顔も頭も喧嘩でさえ勝ち目がないと判断した頭の悪い上級生は、隣にいる僕に目をつけた」


「………ッ!!」


何かを思い出したらしい黒崎が青木のソレを力いっぱい握る。


(痛い痛い痛い痛いッ!!痛いってこのクソ力!!)


振り返って抗議しようとする青木の顔を桃瀬が掴み、


「ほら。こっちに集中!」


一気に喉奥までソレを突っ込んだ。


「んぐッ……!!」


「あのクソ野郎ども……」


黒崎が桃瀬の話を引き継いで話し始めた。


「俺の目を盗んで桃瀬を攫って、校舎裏の小屋の中で……レイプしたんだ!」


「ぷはッ!!」


青木はやっとのことで桃瀬の太ももに手をつくと、一気に顔を引いた。


「ゲホッ…!それと俺と何の関係がある!…オエッ!ノロケも昔話も他所でやれよっ!!」


えずきながらも抗議する青木を桃瀬は見下ろしながら、今度は両手で髪の毛を掴んだ。


「関係あるから話してるんだろうがボケ!他人の話は最後まで聞けって死んだママに習わなかったのか?クソ野郎が!」


「母さんを勝手に殺すな――ふグッ……!」


桃瀬が再び青木の口にソレを押し込んだのと、黒崎が青木の後ろに指を突き刺したのはほぼ同時だった。


「じっとしてたほうがいい。ローションなんか使ってないから、動くと裂けるよ」


黒崎の少し間延びした声が響く。


(くっそ!!)


青木は、黄河のそれとは違い、桃瀬の形の良い臍を睨んだ。



「4人に代わる代わる凌辱され、気づけば朝になってた。一晩中探し回ってくれた黒瀬が、笑いながら帰っていく4人を見つけ、まさかと思って男たちが歩いてきた方向にあった小屋を見つけてくれた」


「警察に行こうって言ったけど、桃瀬は凌辱されたことにショックを受け、そのことを誰にも知られたくないと泣いた。俺は後にも先にも、桃瀬が泣いてるのを始めてみたんだ」



――ひどい目にあったと思う。


美しすぎる2人への汚い嫉妬が生んだ、許しがたい事件だとは思う。


(でもお前らが今やってることは何なんだよ……!)


青木は繰り返される桃瀬のソレと黒崎の指の抽送に耐えながら、床の上についた両手を握りしめた。



「だから――次の週の放課後、人目のつかない路地に4人が入った瞬間に襲い掛かって、2人で殺した。4人を」


「どっちが何人殺したのかはわからなかった。でも気づいたら4人は血だらけで、もう動かなくなっていた」



(そうか……こいつら。その4人を殺した罪で、死刑判決を――)


青木の口内と、後ろと前を犯しながら、2人の昔話は続く。



「でも過去に後悔はない」


「こんな世に未練もない」



もはやどちらが何を言っているのかもわからない。



「だから俺たちは、一人だけの無罪放免は興味ないんだよ」


黒崎の声がボヤけて聞こえる。



「一人だけの死刑免除もね」


桃瀬の上履きも滲んで見える。



苦しさと痛みと、燃え上がる身体の熱で、意識が遠くなっていく。



「俺たちははなからBL実験なんてどうでもいい」


「興味あるのは、僕たちを死刑という永遠の別れに導いたお前の死顔だけだ」


桃瀬は青木の頭を鷲掴みにすると、根元までソレを押し込んだ。



「男と恋愛はおろか、目を合わせるのさえ苦痛にしてやる!」


黒崎の長く太い指が奥まで突き刺さってくる。


「お前は桃瀬があの最低野郎たちに犯られたように、苦しんで死ぬんだ」


「……ああ゛!!」


喉の奥の壁を、桃瀬の先端がゴリゴリと擦る。



未だかつて誰も触れたことのない体の内側を、黒崎の指先が引っ掻く。



「―――ッ!!――――ッ!」



苦しい……。


痛い……。


苦しい……!



地獄を見ているようだ。


こんな地獄なら、もういっそのこと――――。




「……え。桃瀬君?黒崎君?」



その時、背後から聞き慣れない声が聞こえた。



「これは一体どういう……?」



3人そろって振り返ると、



「死刑って?BL実験って…?」



先程赤羽が確かに閉めた扉が開いていて、



顔しか知らない2組の生徒が立っていた。




「――あ」



3人同時にそう呟いた。




『おっと。自然にしていてくれよ。この声は諸君以外は聞こえない』


実験初日、謎の声が言ったセリフが脳裏に蘇る。



『もし一般生徒にバレたら――



「え、なんで……」


パンッ。



「だって見張りはアイツが……」


パンッ。



ほぼ同時に、何かがはじける音がした。



その瞬間、青木の頭を掴んでいた桃瀬の手も、


青木に突っ込んでいた黒崎の指も、


力を失い代わりに二体が青木の身体に覆いかぶさった。



「……わ……わあああああっ!!」


後ろに立っていた男子は、悲鳴を上げながら生物室を駆け出して行った。



「……桃瀬……!?」


やっとのことで這い出した青木は、桃瀬を見下ろした。


彼は茶原の時と同様、首の後ろに穴を開けて、ぴくぴくと痙攣していた。


「……黒崎……!」


今度は黒崎を振り返る。


グレーの髪の毛を首から吹き出した血液で真っ赤に染めた彼の方は、すでにもう意識がないらしく、うつ伏せに倒れたまま動かない。


「……くろ……さ……」


桃瀬の血が付着した真っ赤な手が、宙をさ迷う。


「…………」


青木はその手を引くと、黒崎の頭に乗せてやった。


「……き………」


桃瀬は黒崎の頭を撫でると、安心したようにそのまま動かなくなった。



「――――!」


青木はやっとのことで立ち上がると、二体の死体を見下ろした。


(ジャッジと関係なく殺された。他の一般生徒に見られたから?)


青木は目を見開いた。


(てかこれまさか、俺も同罪になるんじゃねえの!?)


慌てて首元を押さえる。

爆発する気配はない。



「……お前は大丈夫だよ」


そのとき背後から声がした。



「行為を見られたことじゃなくて、実験とか死刑のことを一般生徒に聞かれたってのが問題だから」


振り返るとそこには、扉を足で開け放った赤羽が立っていた。



「あ……赤羽……?なんで……?」


青木があんぐりと口を開けていると、彼を突き飛ばすように6人の男たちが入ってきた。


二人一組になり桃瀬と黒崎をそれぞれ担架に乗せると、青いシートを掛け運び出していく。

さらに残った2人がモップとバケツで飛び散った肉片や血痕をあっという間に消し去り、生物室はわずかな鉄分の匂いを残して、何事もなかったかのように静まり返った。



「…………」


遠ざかる足音を聞きながら、青木は小さくため息をついた。


桃瀬と黒崎。


2人の行きつく先が天国でも地獄だとしても、

一緒に逝けただろうか。


「――――」


廊下で彼らの去って行った先を見ていた赤羽がこちらを振り返る。


「青木……俺は……」


何かを言おうとした瞬間、



――――ドクン。


また熱の波が青木の身体を襲った。



「あ……ア゛………」


青木はそのまま膝をついて前に倒れ込んだ。



「――なんか薬でも盛られたのか?」


赤羽の声が近づいてくる。


……わからない。


声にして言えたのかはわからなかった。


身体が――腰が――意思とは関係なくカクカクと動いてしまう。



赤羽が敵だとしても、


他の死刑囚と同じく、青木のことを恨んでいるとしても、


彼にはこんな姿は見られたくない。



「見る……な!」


やっとのことでそう言ったときには、こめかみから流れた汗が顎から床に落ちていた。



「……くっ……うッ……!」


自分の心臓の音が耳元で煩い。

身体が燃える。


このままじゃ――焼け死ぬ……!


「……ッ!?」


そのとき、後ろから誰かが青木を抱きしめた。


慌てて振り返ると、廊下から漏れる光で赤い髪の毛がかろうじて見えた。


「おい……!」


「いいから黙ってろ。苦しいんだろ」


赤羽の手が腰から股間に回る。


散々黒崎に貪られたソレは痛いほどに反応していた。



黒崎の手よりも硬く熱い掌が、青木のソレを包む。


「……いや……嫌だ……!」


「そうかよ」


「離せ……!」


「はいはい」


強めに握られ上下に擦られる。


「あ……ぁあッ……」


(なんだこれ……!黒崎の時には感じなかったのに……)


青木は打ち寄せる快感の波に思わず顎を上げた。


「……はは。気持ちいかよ」


赤羽がだらしなく開いた青木の唇に指を突っ込む。


桃瀬の時には感じなかった満足感がある。



もっと。


もっと奥までほしい。


「……ンッ……んん……んっ……んッ……」


青木は赤羽の指を、まるで赤ん坊が母親の乳房を吸引するように吸った。


喉が嚥下を繰り返す。



「いいこだ……。そのまま感じてろ」



もっと。

もっと欲しい。


もっともっと赤羽が――。



「いいぜ。イけよ」


赤羽の低い声が耳元で響いた瞬間、



「は……あッ………あ……!」


青木は果てた。


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