第26話 告白と凌辱


「……仲間……?」


青木はいつまでたっても開けてもらえない扉と、相変わらず頬杖をつきながら楽しそうにのぞき込んでいる桃瀬に視線を往復させた。


「そ。あいつも僕らも死刑囚」


桃瀬の大きな目が見開かれる。


「てめーを今すぐぶち殺したい同志なんだよ?」



「――――」


頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。



桃瀬や黒崎が死刑囚?


いや、そんなのはどうでもいい。



あの赤羽が、死刑囚?


俺を恨んでいる人間の一人?



「……ぐっ!」


突然、頭が割れるように痛くなった。


顔が熱い。


いや顔だけじゃない。身体が燃えるように熱い。



「効いてきた?」


桃瀬が視線を送ると、黒崎はやっと青木の背中から下りた。



「……ウッ!……ぐッ……!!」


自分への重圧が消えたのにも関わらず、青木はろくに動くこともできずに、生物室の床を這いずった。


「はは。どこ行くの、死にかけの蟻さん?」


桃瀬の笑い声が遠くで聞こえる。



「……ア゛……ア゛ッ!!」


股間が熱い――。


むしろ痛い――。


全身が溶けてしまいそうだ。




「……俺は……」


掠れる声を出す。



「このまま死ぬのか……?」



「ぷっ」


桃瀬が吹き出す。


「まあ、天国か地獄かのどちらかにはだろうね」



黒崎が青木の上半身を引き上げる。


「赤羽ー。誰も来ないように見張りよろしくー」


黒崎が間延びした声で扉に向かって言うと、


「――了解」


聞き違えるはずのない赤羽の声が返ってきた。


「……赤羽……なん……で……ッ!」


正座で座らされた青木を、桃瀬が覗き込んでくる。


「どしたの。まるで失恋でもしたみたいな顔して」


桃瀬は両手で青木の顔を包み、楽しそうに笑った。



「しょうがねーから、僕と黒崎でたっぷり慰めてやるよ」


その白く小さな手が桃瀬のベルトにかかる。


「もう男なんて見たくもなくなるくらい、徹底的にな」


ボクサーパンツから、華奢な身体にしては大きなソレを取り出すと、桃瀬はニヤリと笑った。



「……ッ!!」


青木はソレと視覚的にそぐわない桃瀬の美しい顔を交互に睨んだ。


「どうした。咥え方忘れちゃった?黄河に習ってただろ?」


桃瀬が再び青木の髪を鷲掴みにすると、抜けるほど強く引っ張り上げた。


「――こんなことして……ただで済むと思ってるのかよ……?」


「ええ?」


「囚人同士のつぶし合いは……だめ……だろ!」


青木は必死に桃瀬を睨んだ。


「ふふ」


桃瀬は一旦青木の髪の毛を離すと、そばにあった机に座った。


「僕たちがこの数日間、何もしないでボーっと過ごしてたと思う?」


「……は?」


「いろいろ試してたんだよね。どこまでがBL実験的にセーフなのか」


桃瀬は下半身を露出したまま足を組んだ。


「ひとつ目。白鳥以外との性行為。これはご存知の通りOK。二つ目。囚人への直接的な攻撃。これも階段を突き飛ばしてもおとがめなし。さらには殴る蹴るも問題なし」


「……じゃああのとき階段から突き飛ばしたのも、夜中に襲いに来たのも――」


「そう。僕たち」


桃瀬はニヤリと笑った。


(こいつら……!)


頭は怒りで煮えたぎるように悔しいのに、視線は桃瀬が露出したソレに釘付けになってしまう。

目を反らそうとしても瞑ろうとしても、眼球がソレに引き付けられるかのように目が離せない。


「はは。コレがほしい?」


桃瀬がソレを軽く上下に刺激すると、たちまち暴力的な大きさに肥大した。


「咥えたかったらいいよ?咥えても」


「……ふざけるなッ!」


頭の片隅に残っている理性をかき集める。


「階段の件も、夜這いの件も、俺の命や体に支障がなかったらお咎めナシだっただけだ!もし俺が実験が続けられなくなるほどのケガや障害を負ったら、お前たちもただじゃ済まないぞ……!クリアして生き返りたいんだろ?」


「――――」


桃瀬はじっと青木を見下ろした。


「そうだろ!?」


青木は後ろに突っ立っている黒崎を振り替えった。


「……お前は本当に馬鹿なんだねぇ」


桃瀬がため息をつく。


「この実験で死刑を免れるのは一人だけ。そのクソなルールの時点で俺と黒崎はすでに実験を放棄してるんだよ」



「僕と黒崎は、ガキの頃から一緒でさ」


「……ッ!」


桃瀬が足を開いて高さを調整し、青木の唇にソレを押し当てながら言った。


「クラスも一緒。子供会も一緒。いつでもどこでもツルんでたわけ」


ぐいと口に指が突っ込まれる。

謎の薬のせいか、それとも自分の身体が本能的に桃瀬のソレを望んでいるのか、口はあっけなく開いてしまった。


「中学校にあがるとさ、ビッチたちが黒崎に寄ってきて、好きですだの付き合ってくださいだの言うようになって――おい。歯を立てんなよ」


「ングッ……」


桃瀬のソレが躊躇なく、青木の口の中に入ってくる。


「ああーここが引き時かなって思ったの。僕はもともとだけど、黒崎はノンケ違うからさ。解放してやろーかなーって思ってたところで……」


「俺が桃瀬に告白した」


「ぐッ!」


後ろから黒崎が青木のベルトを掴み上に引き上げた。


四つん這いの体勢にされた青木に合わせて桃瀬が片膝をつき、もっと奥までソレを挿入してきた。


「嬉しかったなぁ。黒崎のことは初めから諦めてたからさ」


桃瀬が高揚した顔で腰を前後に動かしソレを喉まで挿入してくる。


「……なんで諦めるの。俺はずっと桃瀬が好きだったのに」


黒崎はふてくされるように言いながら、青木のベルトを緩め、ズボンをパンツごと膝まで下ろした。


「なんでって。ずっと一緒にいたのに一度も言ってくれなかったじゃん。好きだって」


「好きじゃなかったら、ずっと一緒にいたりしない」


「……うッ!」


黒崎の手が、剥き出しになった青木のすでに腫れあがったソレを強めに握る。


「そんなの言葉で言わねえとわかんないだろ。だってお前女の子好きだったこともあったし」


「まあ元々はそうだけど。でも桃瀬は特別っていうか。桃瀬だけっていうか」


「……んっ……ぐッ……」


黒崎の大きな手が、限界直前のそれを容赦なく刺激する。


「そんなの僕もだよ。黒崎以外にこんなことしたいと思わない」


「桃瀬……!」



(こいつら……!言葉と行動があってないだろうが……!)


青木は息ができないほど口の中を犯す桃瀬のソレと、自分のアレを扱く黒崎の大きい手に悶絶しながら、涙で滲む生物室の床を睨んだ。


「でもある日……」


桃瀬の声が曇る。


「クソみたいな事件が起きた」


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