第11話 運命の放課後

結局、白鳥とは一言もしゃべらないうちに放課後が訪れた。


何時にジャッジが下るのかはわからないが、白鳥に軽蔑された自分がビリなのは火を見るよりも明らかだ。


「じゃ、いこっか」


もはや迎えに来た茶原と白鳥が、どこで何を話し、その後何をするのかもどうでもいい。


(これだったら最初から、絞首台の上に連れてってくれた方が良かったなー)


そんなことを考えていると、


『やあやあ!死刑囚諸君!健闘しているかい?』


妙に懐かしく感じる例の声が聞こえてきた。


茶原の身体がビクンと震える。


『3日間、ターゲットと距離を縮めた人も、逆に100万マイル離れちゃった人もいるみたいだねー!』


謎の声は高らかに笑った。


(うっせえな、くそ……)


青木は大きく息を吸いこんだ。


『じゃあ勿体ぶっても仕方ないから、ジャッジの結果を発表する。当たり前だがターゲットはもちろん、一般生徒にも気づかれないように』


(はいはい。じゃあ、気づかれないように殺してくださいね!)


ヤケクソで青木が頬杖を突くと、


「白鳥、悪い。ちょっとその前にあいつと話がある」


茶原がそう言って青木の元へ駆け寄ってきた。。


「……は?なんだよ」


(それどころじゃねえだろお互いに!)


言いたい言葉を我慢して聞くと、


「いいからついてこい!」


「あ、おい……!」


茶原は青木の腕を掴んで教室を飛び出した。


◇◇◇◇


茶原が青木を連れ出したのは、階段の踊り場だった。

特別教室へと続くこの階段は、学校が終われば通る者はいない。


「なんだよ、こんなときに!」


青木が手を振りほどくと、茶原はこちらを振り返った。


「こんなときだからだろ!」


やけに真剣な顔に、青木は瞬きをした。


「お前わかってる?今日のジャッジで死ぬんだぞ?」


「――――」


そうだとは覚悟していた。

だからヤケクソで妹を赤羽に託した。


それでも自分で心づもりをしておくのと、人から「死」という言葉を聞くのとでは、その重みと迫力に雲泥の差がある。



「お前、一人で死ぬつもりかよ……!」


茶原は眉間に皺を寄せて俯いた。


「――ふっ。勝者の余裕かよ。言っとくけどな。俺が死んでもお前が1位になれるって保証はねえんだからな」


青木は強がって鼻で笑った。


「白鳥にゲイの気があったとして、それでも幼馴染枠ってのはいろいろ障害が多くて、やれそれとすんなりにはいかねえのがセオリーなんだよ」


「…………」


茶原が俯いた。

その肩が小さく震えている。


(……な。こいつまさか泣いてんのか?)


これが鬼の目にも涙というやつだろうか。

いくらいがみ合い憎しみあっていた相手でも、死を覚悟した奴の前では人間は皆いい人に戻ってしまうのだろうか。


「ま、腐男子の俺から一つアドバイスできるとすれば、幼馴染枠で成功する秘訣は、非童貞アピールかなぁ?」


青木は死への恐怖を誤魔化すべく、ペラペラと話し始めた。


「ガキだった幼馴染が、非童貞で大人になって帰ってきたっていうシチュエーションはある意味王道かな。

自分だけ置いていかれたという寂しさのほかに、友達としか思ってなかった相手が急に大人の男に見えたり、相手の童貞を奪った奴に嫉妬することによって自分の深層心理を気づかされたりだなあ!」


「く……うくっ……」


茶原がいよいよ、嗚咽し始める。


「おいおい。泣いてないでちゃんと聞けよ。今いいところなんだか――」


「お前さ」


そこで急に茶原は顔を上げた。


「……馬鹿なの?」


「…ッ!?」


「俺が本当にお前のために今ここに居るわけないじゃん。言ったよね?俺、お前を恨んでるって」


茶原の顔がみるみる歪んでいく。


「殺されるお前を、至近距離で、特等席で見るために決まってんだろ!ば――――か!!!」


「……!!」


茶原は、思わず後退した青木の胸倉を掴み上げた。


「ほら、見せろよ。お前の間抜けな死に顔。12人の中学生を殺した時の顔とどっちが汚い顔してるんだろうな?ああん?」


顔を寄せてくる。


「死ね!目の前で!見せろ!お前の恐怖に歪む顔を!」


「………ッ!」


「お前に殺された中学生たちはその何倍も何十倍も何百倍も怖かったんだからさぁ!!」


なんて力だ。

振りほどけない。


「……ざまあみろ」


茶原は満面の笑みを見せた。


「お前が人生で最後に見るのは、お前の死を心から望む奴の笑顔だよ?」



『ジャッジ!!!』


謎の声が響く。



『今回の死刑執行は――――』



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