第7話 部屋に来ないか?


帰りのホームルームは、教科書が配られて終わりだった。


(よっし!放課後……!)


青木は鞄に真新しい教科書を詰め込むと、隣の席の白鳥を振り返った。


「白鳥!なんか今日は用事ある?」


「ん?特にないけど」


白鳥が柔和な顔で答える。


「じゃあさ、今日こそ俺の寮の部屋に遊びに来ない?」


青木は立ち上がると、白鳥の机に両手をついた。


こうなったらもはやなりふり構ってなんていられない。

何が何でも明日のジャッジで最下位だけは免れなければ。


(ん?待てよ……)


茶原を含む6人の刺客がいるはずのクラスを睨む。


(明日がジャッジなのは、他の6人も同じはず。でも見る限り、白鳥とまともに話してるのって俺と茶原くらいなんだけど……)


何か秘策があるのか。

それとも6人という情報自体が嘘なのか。


(そうだよ!何バカみたいに信用してんだ俺は……!得体のしれない奴に管理された、わけのわからない状況なのに、このBL実験をまるきり信じていいのか……?)


「マジで!?」


白鳥の声で青木はやっと向き直った。


「行く行く!今から?」


彼はニコニコと立ち上がると、学生鞄を肩に掛けた。



(――無駄に迷うな、俺!今はこの実験を信じて従う以外に道はないんだ!)


「ああ。すぐ近くだからまっすぐ行こうぜ!」


青木が言うと、


「なあ……」


2人の背後には、茶原が立っていた。



「俺も一応寮生なんだけど、一緒に行っていいかな。他の間取りも見てみたいし」


茶原は白鳥を見つめながら言った。


(こいつ……やっぱりきやがったな)


青木は白鳥に見えないように、こっそり茶原を睨んだ。


昨日はあんなに積極的だったくせに、授業中も休み時間も身体測定の時でさえ、ほとんど白鳥に話しかけに来なかった。

まさかこれで終わるわけではないと思っていたが、やはりこの機会を窺っていたのだろう。


(邪魔してくるか。くそ……白鳥と2人きりになりたいのに!)


青木は白鳥を盗み見た。

気のいい白鳥のことだ。きっと、


『いいよ!じゃあ3人で一緒に行こう!』


(どうせそう言うよな)


ここで変に拒んで白鳥に不信感を抱かせてしまっては元も子もない。


(仕方がない。今日はキスは諦めて、“いい奴”になることに徹しよう)


小さくため息をついたところで、


「ごめん。今日は青木が先だったから、茶原はまた今度な」


白鳥はあっさりと茶原を断ると、青木の腕を掴んだ。


「行こ。青木」


「あ、ああ……」


「え!?あ、待ってよ!」


茶原が2人の前に回り込んできた。


「俺、どうしても白鳥に相談したいことがあって……!」


茶原の顔が、はた目から見ても気の毒なくらい青ざめている。


「相談したいこと?」


白鳥はキョトンと目を見開いた。


「それって今日じゃなきゃだめ?」


「あ……ああ」


茶原は困ったように眉を下げた。


「俺、寮の部屋で待ってるから、青木と遊び終わってからでいいから寄ってほしい」


「――――」


青木は眉間に皺を寄せた。


やられた。


青木と遊んだ後ということは、日没もしくは仄暗い宵の口。

ムードのある部屋で2人きり。

相談があると言うことは、おそらく並んで座るんだろう。

カーペットの上?

いやきっとベッドの上だ。


2人並んで座って、

告白する茶原。

戸惑う白鳥。

ふいに唇を奪う茶原。

驚く白鳥。

舌が入ってきて、

そのまま二人はベッドになだれ込み――。



「……わかった。いいよ!後から部屋に行くね」


青木の妄想を、白鳥の声がかき消した。


「じゃ、スマホに部屋番送っといて」


白鳥は踵を返し、歩き出した。


「――――」


茶原を睨む。


しかし彼は白鳥から視線を移し、床を睨んだ後、静かに席に戻っていった。



(……なんだ?あいつ)


青木は首を傾げながら、白鳥に続いて教室を出た。


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