決戦! 神々の戦い

 戦意喪失した互助会メンバー。その中で1人だけ元気な人がいた。委員長だ。


「もー、みんな情けないわね。……でも、あとはうちが引き受けるから。任せなさい」

 

 普段はわがままな振る舞いが目立つ彼女だが、トラブル時は持ち前の姉御肌を発揮し、急に頼もしくなる。

 これが、僕らが委員長についていく理由であり、〈控えめに言って神〉と言われる所以ゆえんだ。

 僕らは床に寝そべりながら、スマホ片手に戦いの行く末を見守っていた。うん、指は元気だからね。



 観戦モードに入ってまず目についたのは、とあるツイートだった。

  

『それってもしかして僕のことでしょうか……? 悲しいです。さっきから吐き気がします』



「出たわね。カミ=エカキ」


『コエデカさん、感想くれないって呟かないと感想貰えなくてかわいそう……。でもごめんなさい。僕は逆カプに感想を送ることはできません。体が受け付けなくて……。本当にごめんなさい』


委員長が忌々しげに舌打ちする。


「こんのメンヘラめ……3週間前のこと蒸し返してわざわざ呟くなっての。バカにしてんじゃないわよ」


 僕はカミ=エカキさんのことをミュートしていて、彼女のツイートを眺めるのは久しぶりだ。改めて遡ってみると、彼女は「自分が悪い」と予防線を張り、相手に責められなくしている。

 実に巧妙なやり口だが、この手法を取るのは委員長も同じだ。すなわち――

 同族嫌悪。

 僕の脳内にこの4文字が並んだ。

 

「いいわ、望むところよ」


 委員長は制服のジャケットを脱ぎ捨て、威勢よく、


「直接対決といこうじゃないの!」

 

 こうして、大手絵描き同士の直リプ対決――神々の戦いが幕を開けた。

 


『子どもみたいにネチネチ文句言ってんじゃないわよ。過去ツイの再掲はあんたのTLだけにしてほしいわね』

『まず、僕は高圧的な態度をとられるのが苦手です……。文字だけのやりとりになるので、もう少し丁寧な言葉遣いをお願いできませんか。あと、文句のつもりはないです、すみません』

『オープンな場で名指ししてる人の言葉とは思えないわね。丁寧な言葉でもばっちり傷ついたわ。あなたは自己愛が滲み出すぎ』

『元はといえばコエデカさんから始めたんです。僕に毒マロ送ってきたのあなたですよね? 僕のことを攻撃したいなら、陰でコソコソせずにご自分の名前出して欲しいです』

『そう言うけど、直接伝えたらどうせ真逆のこと言うんでしょ。だいいち、あなたが燃料投下してきたんでしょうが』

『燃料って……僕、からレモの話をしてただけじゃないですか……怖いです…………』


「から――っ!」


 地雷だ。

 〈からレモ〉は、互助会メンバー共通の地雷。委員長の端正な顔が歪み、怒りでスマホを持つ手が震えている。


「耐えた……」

「委員長が耐えたぞ!」


「うるさいわね外野! 黙ってスクショしなさいよ!!」


 荒い息を繰り返しながら、彼女は続きを打ち込む。



『あのさぁ、その“怖いです”が怖いのよ!』

『今度は何がお気に召さないのでしょうか……。そうやってすぐ怒る方、みじめに見えます……かわいそう』

『はぁ!?』

『もうやめませんか? ほんとに怖いんです……。コエデカさんとリプ始めてから僕ずっとお腹痛いんですよ……』


 その後も、2人のリプ合戦は朝日が昇るまで続いた。

 あーあ、スクショ撮るの面倒になってきた。追いつきそうにないし。もうヤメだヤメ。


「神って案外ヒマなんだな……」

 天井をぼうっと眺めつつ、ぽつりと呟いた。

 争いは何も生まない。

 僕らが得たのは強い疲労感と、自分の品格を下げたことへの虚しさだけだ。心にぽっかりと空いた穴を隠すように、僕はアプリを閉じ眠りにつこうとした。

 そんな矢先――


『え待って!?!?!?!?!?!?』


 殺伐した雰囲気を吹き飛ばすような叫びが、TLに投下された。

  

『無理無理むりむち死んじゃう死んじゃy』

『からあげおいしい』

『どひゃーーーーー!!!!!!!』

『うそやん』

『信じられない! 泣ける〜〜』


 悲鳴や歓声が次々に上がる。

 さっきまで神々の戦いを繰り広げていたはずのTLは、あっという間に祭り会場と化した。

 一体何が起こったんだ……? 僕の疑問は、元ツイによってすぐに解消された。

 


【『唐揚げ紳士と夜の檸檬』アニメ化決定!】

 


「……は?」

 一拍遅れ、みんなの動きが固まる。

 周囲はしんと静まり返り、そして次の瞬間――

  


「公式供給だー!」



 喜びの大爆発。ドージン学園に歓喜の渦が沸き起こる。


「やったー! こうなったら、レモからもからレモも関係ないわねっ! フォロワー! 拡散、拡散よー!!」

「あいあいさー!」


 さっきまでの地獄の空気はどこに行ったのか。

 レモン科とからあげ科の争いは一時休止となり、垣根を越えた祝祭が始まったのだった。

 


 めでたしめでたし。

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僕らのオタク戦争 やまさき @kogao

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