第1話 運命の出会い

 風を切る音。走り抜ける足音。少年は駆け抜け、世界を蹴る。

 ここは魔術の星・ライブグレイヴ。

 魔術の霊主の導きの下、人々は今日も魔術に没頭している。


「はぁっ……。はぁっ……」


 多くの建物の並ぶ路地を駆け抜ける少年は、まるで瞳を輝かせているかのように期待に満ちた表情を見せる。

 雪景色を見せるかのように輝く白銀の髪に、烈火の如く赤い瞳。とても端正な顔立ちをした、見たところよわい16あたりのボロボロのローブを身に纏う美少年。

 彼の名はシンヤ。魔術の星に住む、ごく普通の少年だ。

 シンヤは突如、とある建物の扉の前で立ち止まった。そこは何の変哲も無い一軒家のように見える。

 シンヤはその建物の扉のドアノブに手を伸ばし、そっと深呼吸した。


「『真なる器・ここに在りし夜の鏡・映し出せ・真実の虚言よ』」


 シンヤがその呪文のような言葉を発して扉を開く。その刹那、シンヤの身体は光だし──


「みゃ~」


 シンヤの目の前には、荒廃した部屋に、一匹の猫が居た。


「みゃ~!」

「いつにも増して元気だな、ミャーコ」

「みゃ~!」


 いや、正確に言うならば『それ』は猫ではない。白い毛並みには惹かれるものがあるが、『それ』には二本の尻尾が付いており、明らかに猫では無かった。

 いや、いびつな形をした生物はこの世界では珍しくはない。魔術実験の事故に巻き込まれでもしたのだろう。そんなことはさておき、シンヤはミャーコを撫でながら詠唱破棄で固有異空間のゲートを開く。魔術の星には幼い頃からあらゆる魔法を教え込まれる。それはシンヤも例外ではない。だからシンヤも魔術がプロフェッショナル程度には使えるのだ。

 シンヤは固有異空間から沢山の食べ物を取り出す。ミャーコの為に買ってきた安いパンだ。

 ミャーコは嬉しそうにパンに食いつき、途切れる気配の無い食欲をシンヤに見せる。


「美味いか?ミャーコ」

「みゃ〜!」

「……そうか」


 シンヤは優しく微笑み、ミャーコの頭を撫でる。

 その微笑みには、悲哀のような表情も感じるようで……。


「……今月は結構カツカツかもな……」

「みゃ〜?……みゃっ!」

「あぁ、もう俺の魔力を売るとかはしないから安心してくれ」


 魔力を売る。この星ではよくある金稼ぎの手段であり、最もこの世界の死亡率の高い原因でもある。

 そもそも魔力というのは個人差がある。時に魔力の少ない者が魔力を売ることによって死亡してしまうことは多々あった。いや、今でも多数起きている。

 シンヤがこうして生きているのは、魔力が生まれつき莫大ばくだいにあるから。それと、早めに魔力売りを止めたことにある。

 今では普通に店で働き、ここでミャーコと二人で暮らしている。


「あ、そうだ。店長がよければ持ってけって、これもくれたんだ」


 シンヤは固有異空間から一冊の本を取り出す。


「じゃーん!魔導本まどうぼんだ!」

「みゃ〜!」

「あぁ。これでちゃんとした媒介を手に入れたよ。俺もまともに魔術を使える」


 シンヤは嬉しそうにボロボロの魔導本を見つめ、ニマニマ笑う。

 そもそも、魔術を使うにも『媒介』を用意し、それによって魔力を形成させる。

 先程シンヤが扉を開く際に魔術を使っていたが、それは扉を媒介にする、いわゆる『即興魔術』だ。

 今、シンヤの手には『魔導本』というしっかりした『媒介』がある。

 それがあることによって、先程の扉を媒介にする『即興魔術』をする必要がなくなるということだ。

 分かりやすく説明すれば、より精度の高い魔術を使えるようになったということである。

 そもそも、『即興魔術』で今まで生活出来ていたのはシンヤの膨大な魔力のお陰でもある。シンヤの魔術の才能は底が知れないものだ。


「みゃ〜……。みゃっ!」

「あ、悪いな。魔導本よりもお前のほうが大事だよ」


 魔導本に嫉妬したのか、シンヤにペシペシと猫パンチしてくるミャーコ。

 それを微笑ましく思いながらシンヤはミャーコを撫でようとする。


 ドゴォォオオオオオオオ!!


 その刹那、扉が大きな音と爆発が起き、シンヤとミャーコは驚いて警戒態勢をとる。


「何だ!?」


 シンヤがそう言うのと同時に、煙の巻き上がる中心から、何者かの声が聞こえてきた。


「あれ?ここに霊主の気配がしたんだけど……。違ったかな?」

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星間記録 瑠璃 @20080420

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