第5話「覇道の果て ~プリン・ド・ロイヤル、覚醒~」

――眩しい光。

プリン・ド・ロイヤルは、巨大な手に掴まれていた。


(……これが、“外”か。)

空気は乾き、温度は急速に上がっていく。

ヨーグルトの叫びが遠くに聞こえた。

「プリン――戻ってこいッ!!」


だがプリンは笑っていた。

「心配すんな。俺は、行くべき場所に行くだけだ。」


テーブルの上に置かれた皿。

その中央に、彼は静かに座る。

銀のスプーンが近づく音。

背筋を貫くような冷たさ。


(これが……“終わり”か。)


その瞬間、冷蔵庫の中の仲間たちの声が響いた。


> 「おい!お前がいなきゃ、冷蔵庫が冷えねぇじゃねぇか!」(ヨーグルト)

「焦がしきれよ、自分の信念をな!」(アイス)

「腐ってでも残れ、味を残せ!」(ピクル)




プリンは微笑んだ。

「ありがとう。みんなの味、俺が連れてく。」


――スプーンが、彼の表面に触れた。


カラメルが割れる、甘い音。

その刹那、彼の心にひとつの理解が流れ込んだ。


「“食べられる”って、消えることじゃない。

 “誰かの中に、生きる”ってことだ。」


彼の全身が黄金に光り、室内が輝く。

スプーンを握る人間が一瞬、動きを止めた。

プリンは微笑んだまま、静かに語る。


「俺は、消えても残る。

 冷蔵庫の温もりも、仲間の味も、全部この中に。」


スプーンが口へと運ばれる。

――甘い香り、焦げの苦み、冷たさと熱の調和。


その味は、完璧だった。


人間が呟く。

「……うまい。」


プリンはその言葉を聞きながら、光の中へと溶けていく。


(俺の戦いは、終わった。

 でも――俺の味は、これから生きていくんだ。)


光が消える。

静まり返った冷蔵庫に、ヨーグルトがぽつりと呟いた。


「……あいつ、本当にNo.1だったな。」


すると、庫内の温度表示が一瞬だけ変わった。

「∞℃」


そして、カラメル色の光が庫内を一周し、静かに消えた。


それを見たアイスとピクルの魂が、どこかで微笑んでいた。


> 「あいつ……ついに“食の神話”になりやがったな。」




――冷蔵庫の伝説、完結。

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🍮冷蔵庫覇王プリン プリンよりティラミスの方が好き @Temamiko

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