第4話:異次元侵攻!電子レンジ帝国

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夜。

冷蔵庫の奥が、いつになくざわめいていた。

チーズの残香、アイスの残氷、漬物の酸――

戦いの跡が、まだ庫内に残っている。


だが、今日は空気が違う。

冷気の底に、“熱”が混じっていた。


プリン・ド・ロイヤルはカラメルの表面を撫でる。

「……感じるな、焦げるような気配を。」

隣でミルクが震えながら言った。

「プリン……これ、庫内の熱じゃない。

 外から……何か来てる!」


ピピッ……ピピッ……。

電子音が響く。

冷蔵庫の上段、天板から赤い光が差し込んだ。


「温度上昇検知。上層より熱波侵入。」

庫内AIの無機質な声が流れる。

プリンが見上げた瞬間、天井が裂けた。


――ドォォン!!


冷蔵庫を貫く灼熱の光線。

牛乳が悲鳴を上げる。

「熱い……! 溶けちゃうよぉ!!」


その中から現れたのは、黄金の装甲を纏う巨体。

体の中心に電子の瞳、腕には赤い加熱コイル。


「我が名は――マイクロ・ウェーブ・ザ・レンジ皇帝。

 熱をもって世界を清める者なり。」


プリンがにやりと笑う。

「ついに来たか。“温め”の帝国。」


レンジ皇帝の声が轟く。

「冷たい甘さなど偽りだ。

 真に旨きものは、加熱によって完成する。

 冷蔵庫の秩序など、保存された偽物にすぎぬ!」


「……保存こそ、誇りだ。」

プリンが構える。

「焦がしすぎれば、味は死ぬ。

 お前の熱が、すべてを壊すなら――止める!」


レンジが右手を上げる。

「ならば試すがいい。

 熱核照射(サーモ・バースト)!!」


赤い閃光。

冷蔵庫全体が揺れ、バターが溶け、卵が爆ぜた。

プリンの体が灼かれ、カラメルが泡立つ。


「ぐっ……! 熱量が違いすぎる……!」


「焦げることを恐れるな。

 熱こそ進化、焼かれることで香りが立つのだ!」


プリンは踏みとどまりながら叫ぶ。

「お前の熱は、ただの暴力だ!!

 焼きすぎたら、味が死ぬ!!」


「ならば証明せよ、甘き短命の王よ!」

レンジの胸部が開き、

内部から無数の加熱コイルが現れた。


「連続照射・再加熱モード(リヒート・テンペスト)!!」


次の瞬間、庫内が真っ赤に染まる。

温度表示が「5℃」→「60℃」→「90℃」……。


「うわああああ!!」

プリンが叫び、体が崩れ始める。

カラメルが溶け、容器の縁を越えて流れ落ちる。


ミルクが泣きながら叫ぶ。

「もうやめてぇ! プリンが……!」


だがレンジ皇帝は冷たく言い放つ。

「これが運命だ。

 お前たち“冷たい命”は、熱により消える定め。」


プリンの意識が遠のく。

(ああ……俺、溶けてる……。

 焦がすことも、もうできねぇのか……。)


――その時、声が聞こえた。


> 『おい……諦めるな。焦げても、まだ味は残る。』




「……この声……アイスか?」


> 『お前の熱、悪くなかったぜ。俺の冷気も、燃えた。』




次に、どこかで柔らかな声。


> 『腐るのも、熟すのも、生きるってことだ。焦げは恐れるな。』




「ピクル……!」


そして、優しいミルクの声が重なった。


> 『プリン……あなたは、焦げても美味しい。

 だから、消えちゃダメ。』




プリンの心が震えた。

(そうだ……俺は、焦げるために生まれたんだ。)


カラメルの残滓が、ゆっくりと光り始める。

溶け落ちた液体が再び集まり、

黄金の渦となって形を作る。


「――焦がすほど、甘くなるんだよ。」


レンジ皇帝が振り返る。

「なに……再構成だと!?」


黄金の炎が吹き上がる。

カラメルが固まり、焦げの紋章が全身を覆う。


プリンが立ち上がった。

「名を改めよう。

 プリン・ド・ロイヤル・ブリュレフォーム。

 お前の熱を、俺の香ばしさで包んでやる!」


「馬鹿な! 熱を……取り込んだだと!?」


「そうだ。熱と冷気、甘さと苦み――全部混ざって、

 “味”になるんだよ。」


プリンが拳を構える。

焦げた外殻が光を放つ。


「いくぜ。焦糖極光(カラメル・オーバードライブ)!!」


黄金の衝撃波が走り、

レンジ皇帝の装甲を次々と焼き切っていく。

熱と焦げが交差し、庫内が閃光に包まれた。


レンジが咆哮する。

「この熱が、止まるものかァァァ!!」


「止まらなくていい。

 お前の熱も、俺の一部にする!」


プリンが飛び込む。

二つの力がぶつかり合い、

爆発的な蒸気が吹き荒れる。


温度表示が「∞℃」を示し、光が弾けた。


……やがて、静寂。

庫内に残ったのは、焦げた香りと柔らかな光だけだった。


ミルクが震える声で呼びかける。

「プリン……?」


黄金の中から、ゆっくりと姿が現れた。

表面は焦げ、だが中心には透き通る甘い輝き。

「心配すんな。少し焦げたけど、上出来だ。」


レンジ皇帝は膝をついていた。

「……理解した。

 熱も、冷も、どちらかだけでは味にならぬ。

 お前の焦げ……美しい。」


「お前の熱もな。」

プリンが手を差し出す。

レンジは笑いながら、その手を握った。


「次は……人間の領域か。」

プリンが冷蔵庫の外を見上げる。

レンジが頷いた。

「そうだ。外の世界では、“食”が乱れている。

 作りすぎ、捨てすぎ、食べきれぬほどの飽食。

 我らの戦いは、まだ終わらぬ。」


プリンのカラメルが静かに揺れた。

「食べられるために生まれた俺たちが、

 今度は“食べすぎて捨てる人間”を救う番か。」


ミルクが微笑んだ。

「行こう、プリン。

 今度は冷蔵庫の外で、“味の正義”を見せてやろう。」


プリンは立ち上がる。

焦げた香りをまといながら、光の方へ歩き出した。


「――焦がせ、この世界を。

 それが、俺の生き方だ。」


ドアが開く。

まぶしい光が差し込み、プリンの姿が溶けていった。


そして、静かな声が残る。


> 「冷たくても、心は熱い。

だから、焦げてもいいんだ――それが俺の味だ。」




――次回、最終話

「覇道の果て ~プリン・ド・ロイヤル、覚醒~」

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