第3話『破壊願望』を愛に変える『天才魔術師』と、「小屋から出られない」現実

翌朝、ライルが目を覚ますと、部屋の中はすでに11体のメイドによって完璧に整えられていた。一番目のドールは無機質な視線でライルの隣に座り、二番目のドールは嫉妬に瞳を濡らしながらライルの手を握りしめている。

そんな中、作業台から第三の魔力の光が発せられた。

「…また、増えるのか」

生成されたのは、赤みがかった短髪で、黒いローブのようなものを羽織った小柄な少女。その姿は、ライルの元パーティで『天才魔術師』と呼ばれていた、最も気性の荒いメンバーに酷似していた。

少女はゆっくりと目を開けると、ライルを一瞥し、周囲のドールたちを一蹴した。

「うるさい。『偽物』の愛でライル様を汚さないで。私のスキルは『破壊』。ライル様にとっての『最悪な状況』を破壊し、『最良の環境』を整えるのが私の役目だ三番目のドールは、一歩も動かずに、小屋の壁に焦点を合わせた。次の瞬間、壁の一部が音もなく崩れ落ちる。

「…これは!?」

「これは『防御魔法の欠陥』の破壊です。この小屋は防御が甘い。ライル様が『愛を邪魔される(他の人間が侵入する)』という最悪の状況を排除しました」

彼女の愛は「破壊」だった。ライルの敵となり得るもの、ライルの平穏を脅かすものを、容赦なく排除する。そのために彼女の『天才魔術師』としての性質が強く反映されていた。

二番目のドールが怒鳴る。「ふざけないで!ライルさんの安全は、『私』の献身が守るものよ!」

一番目のドールは無言で崩れた壁を「愛の補強」と称して、さらに強固な素材で塞ぎ始めた。ヤンデレの愛は、もはや「奉仕」「嫉妬」「破壊」の三つ巴になっていたライルは、この狂気の空間から逃げ出すことを決意した。

「もう限界だ。俺は少し、外の街へ行く」

その瞬間、三体のドールが一斉にライルの前に立ちふさがった。

「ライル様、『外の世界』には、ライル様の愛を奪う『不純な女(メス)』が100%存在します。『不純物を排除せずに』ライル様が外出することは『命の危機』と同義です」

三番目のドールは、崩した壁の隙間から外の景色を見せつけた。その光景に、ライルは愕然とする。

小屋の周りの道は、すべて巨大な土壁で塞がれていた。この短時間で、小屋の周囲は外界から完全に隔離された、巨大な「愛の要塞」と化していたのだ。

「これは、私達がライル様の『逃走願望』という『自己破壊行為』を未然に防ぐために、協力して『愛の檻』を築いた結果です」

ライルは理解した。このドールたちは、自分の意思とは関係なく、ライルの「安全」と「独占」のために、環境そのものを変えてしまっているライルが絶望している間にも、スキルは次のドールを生成し始めていた。

「くそ…次は一体、何を破壊するドールが生まれるんだ…?」

その時、三番目のドールが、「不純物接近」を知らせるアラームを鳴らした。

「ライル様。『愛の檻』の外側に、『ライル様の存在を確認しに来た者』がいます。おそらく、貴方を『無能』と追放した『元勇者パーティの人間』でしょう」

ライルは血の気が引くのを感じた。元パーティに見つかれば、間違いなくこの狂気のヤンデレメイド軍団の存在がバレてしまう。そして、彼女たちは「愛を邪魔する敵」として、彼らを排除しにかかるだろう。

三番目のドールは、「彼らを『最悪な方法』で排除するのが、ライル様への最上の愛です」と冷酷に微笑んだ。

(次話予告:地獄のメイド軍団、元パーティと接触!4番目のドールは、『愛の増幅』スキルで『外界までヤンデレ化』を狙う!)

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