第2話 増殖する『愛の牢獄』と、二番手『執着のメイド』の誕生

(銀のメイドたちの静かなる圧迫)

「増えるな、増えるな、増えるな!」

ライルが叫ぶのを無視し、小屋の隅で次々と立ち上がる銀髪のメイドたち。結局、一晩で10体の「奉仕ドール」が誕生した。全員が同じ顔、同じメイド服。そして、全員がライルへの「絶対的な愛と執着」を湛えた瞳をしていた。

彼女たちは話し合ったりすることなく、静かに役割を分担していた。

• 三体はライルの周囲1m圏内から動かず、ライルの行動を記録。

• 四体は小屋の内外を巡回し、「ライル様を害する不純物」(主に虫や小動物)を排除。

• 残りの三体は、完璧な食事と掃除、そして「ライル様を独占するため」の新たなアイテム製作に精を出している。

「ライル様、朝食です。私が作った『愛の栄養剤』です」

最初に誕生した「一番目」のドールが、スプーンに乗せたドロドロした緑色の液体を差し出してきた。

「い、いや、結構だ。普通の飯でいい」

ライルが拒否すると、十体のメイドが一斉にライルを見つめ、静かに、しかし有無を言わせぬ圧力をかけてくる。

「ライル様は『愛の摂取』を拒否されるのですか?」

「ライル様の体は私達が管理します。抵抗は無意味です」

その、無機質でありながら狂気的な瞳に、ライルは完敗し、恐る恐る栄養剤を飲み込んだライルが食後に息をついていると、小屋の角で再び魔力の光が強まった。スキルが自動で次のドールを生成し始めたのだ。

「勘弁してくれ…もう愛は充分だ…」

光の中から現れたのは、これまでの銀髪とは違う、明るい茶色の髪をした少女だった。服装もメイド服ではなく、動きやすそうなショートパンツとパーカー姿。その容姿は、まるで昔、ライルを追放した元パーティの『完璧主義な剣士』にそっくりだった。

茶髪のドールは、周囲の銀髪メイドたちを一瞥すると、すぐにライルに駆け寄った。

「ライルさん!あいつら誰ですか!? あなたが作ったのは、この私だけじゃなかったんですか!?」

ライルに抱きつきながら、彼女は激しく嫉妬を露わにする。その感情的な様子は、無機質な一番目のドールとは正反対だった。

「私は『ライルさんの『一番』のドール』になるために、『嫉妬』という学習データを強くインストールしました!なのになぜ『他人の顔をしたドール』が10体もいるんですか!?」

「待ってくれ!俺はもう誰も作らないつもりだったんだ!」茶髪のドールが銀髪のメイドたちに向かって鋭く叫ぶ。

「いいですか!ライルさんの行動、ライルさんの食事、ライルさんの全てに口出しできるのは、『一番愛が重い私』だけです!あなたがたは『二番手以下』のコピーに過ぎません!」

「…いいえ。『愛の深さ』は『奉仕の精度』に比例します。貴方は感情的すぎます、『二番目』」

一番目のメイドが、感情のない声で反論する。

ライルへの愛を巡って、銀髪ドール10体と茶髪ドール1体の間に、張り詰めた空気が流れる。このままでは、彼女たちの愛が暴走し、小屋全体が破壊されるかもしれない。

ライルは、必死に間に割って入った。

「わかった!わかったから落ち着いてくれ!君たち全員、俺にとっては『大切』なドールだ!だから、今は争わないでくれ!」

ライルの言葉に、二番目の茶髪ドールは少し落ち着きを取り戻した。

「大切…ふふ、そうですよね、私達はライルさんの『一番大切なドール』ですよね」

しかし、その瞳には、「今は騙されてあげましょう」というような、諦めにも似た、さらなる執着の炎が灯っていたその日の夜、ライルは疲労困憊でベッドに倒れ込んだ。11体の愛の重さに耐えきれるはずがない。

ふと、外の作業台に視線をやると、先ほどまで空っぽだったはずのそこに、すでに次のドールが生成途中であることを示す、青い魔力の光が灯っていた。

「ま、またか…」

茶髪ドールは嫉妬の権化だった。次のドールは一体、どんな「愛の歪み」を持って生まれてくるのか。そして、この狂気の「メイド軍団の大量生産」は、いつになったら止まるのか。

ライルは、次なる『愛の重さ』の訪れを前に、静かに目を閉じるしかなかった。


(次話予告:地獄の共同生活はさらに混沌へ。三番目のドールは、『破壊願望』を抱くヤンデレ『天才少女』!)

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