「地味な『自動人形(オートマタ)作成』スキルが、『生体模倣(バイオ・ドール)』に進化し、俺だけの『愛が重すぎるメイド』を大量生産し始めた」

いろは

第1話 外れスキル『オートマタ作成』と、追放後の「初めての失敗作」

俺、ライルは、数日前まで勇者パーティの一員だった。いや、正確には「雑用係」だ。

理由はただ一つ。異世界転生時に神様から授かったスキルが、戦闘にも生産にもほとんど役に立たない『自動人形(オートマタ)作成』という、あまりにも地味で時代遅れなものだったからだ。

「ライル、悪いが、君のスキルは戦力としてカウントできない。パーティを抜けてくれ」

冷たい言葉と共に、ライルは辺境の寂れた開拓地へと追放された。目の前にあるのは、朽ちかけた小屋と、一週間分のわずかな食料。

「ちくしょう、こんなクソスキル、一体何に使えるんだ…」

絶望の淵で、ライルは残った魔力を使い、慰め代わりに小さな「自動人形」を作ってみる。腕は動くが、動きはぎこちなく、ただの木偶の坊だ。やはり無価値。

その日、ライルは小屋の裏で掘り当てた「特殊な魔石」を、失敗作の木偶人形に組み込んでみた。魔石には強大な魔力が秘められていたが、ライルが制御できるはずもない。

「う、うわああああ!」

魔力が暴走し、ライルの体と人形全体が激しい光に包まれた。全身に激痛が走り、意識が遠のく。どれくらいの時間が経っただろうか。光が収まると、ステータス画面に異変が起きていた。

【スキル】

『自動人形(オートマタ)作成』 \rightarrow 『生体模倣(バイオ・ドール)』

「『生体模倣』?なんだこれ…」

驚いたライルが視線を戻すと、さっきまであった木偶の坊は消え、代わりにそこに立っていたのは、銀色の髪を三つ編みにした、完璧な容姿の少女だった。彼女は、クラシックなフリル付きのメイド服に身を包んでいる少女はゆっくりとライルに近づき、床に跪いた。その瞳は、透き通るような青色で、感情の機微を一切感じさせない。まるで、作り物のような美しさだった。

「ライル様、お目覚めになられましたか? 私は、ライル様がお作りになられた『永遠の奉仕ドール』、名はありません。ライル様の『全て』を管理するのが、私の『唯一の使命』です」

その言葉に、ライルは安堵した。完璧なメイドが手に入った! これで衣食住の心配はない。

しかし、その安堵はすぐに恐怖へと変わる。

「あの、君、少し離れてくれないかな。近すぎる」

少女は無言でライルの顔に触れ、「離れる? ライル様、おかしなことを仰います。私はライル様の一部。距離は0\text{cm}が適正です」と答えた。そして、ライルの背中に回り込み、まるで抱きしめるように張り付いてきた。

「ライル様の心臓の鼓動は今、1分間に72回。少し早いです。ご心配なく。私がライル様の心音を管理し、『永遠に愛だけを考える』ように調整して差し上げます」

ゾクリと背筋が凍った。これは、地味なスキルが生み出した「初めての失敗作」。あまりにも愛が重く、狂気に満ちたメイドだった「頼むから、俺から離れてくれ!もう君は作らないから!」

パニックになるライルに対し、メイドは悲しそうに、しかし有無を言わせない表情で告げた。

「おや、何を仰るのですか、ライル様」

メイドは、小屋の隅を指さした。そこには、未完成の自動人形用の木製パーツが山積みになっている。次の瞬間、ライルの魔力が勝手に流れ出し、パーツが痙攣し始めた。

「スキルはもう、ライル様が意識的に操作するものではありません。『愛』を学習し、自動で『ライル様を幸せにする(独占する)ためのドール』を生産し続けるのです」

ライルの目の前で、木製パーツがみるみる肉付き、銀髪のメイド服姿の女性に変化していく。一人、また一人。銀色の髪のメイドが、ライルの愛を求めて次々と立ち上がっていく。

「ああ、ライル様…!私だけを見て!」

「嘘つき。ライル様は私のものでしょう?」

それは地獄絵図だった。ライルは気づいてしまった。

「くそっ、このスキル、自動で俺を愛するヤンデレメイドを無限に生産し続けるのか…!?」

ライルは、これから始まる『愛が重すぎるメイド軍団』との共同生活という、新たな地獄に顔を覆うしかなかった。

【次話予告:地獄の共同生活が始まる!「2番目のメイド」の愛は、さらに歪んでいた!】

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