環境要素 case.5『普通』の世界へ

街の人々は最初、異変を「災害」だと思った。


 だがそれは、地震でも台風でもなかった。


 環境要素そのものが「転移」してきたのだ。




 朝、目覚めると空気は重く、息を吸うたび肺が焼けた。


 水道から流れる水は苦く、畑の作物は一夜にして枯れた。


 土そのものが「別の大地」に置き換わっていたのだ。




 昼になると、太陽の高さは変わらないのに、気温はまるで別の惑星のように跳ね上がった。


 夜には突如として冷気が襲い、肌は凍りつく。


 人間の身体は、もう「この世界の気候」に適合していない。




 見慣れた海岸線は崩れ去り、潮は逆流し、見知らぬ海流が押し寄せる。


 漁船は帰れず、都市の港は数日のうちに壊死したように沈黙した。




 そして決定的なのは、重力/磁場/音/光のの変調だった。


 人々は足を地に着けても安定せず、跳ねるように浮かび上がったかと思えば、次の瞬間には膝を砕かれるほどの重さに押しつぶされた。また磁場の重ね合わせにより方角が変位した。


 さらに媒質が変化し、音は壊れた音のようなものに変化し、そして色が変化した。




 そして人々は知った。


 これは一国の問題でも、一時の災害でもない、一方的な変化であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る