インフラ backcase.1
目の前の道路は、確かにある。
だが――地図などには、その道は記されていなかった。
インフラそのものが異世界に「転移」したのだ。
現実に存在していた構造物も、管理するための記録や人も、手元から奪われた。
それでも不可解なことに、「機能」だけは残っている。
水道は水を吐き、電線は灯りをもたらす。だが、それを制御する仕組みは跡形もなく失われた。
人々はしばしの間、安心した。水は飲めるし、家も照らされる。
けれど次第に、不安が胸を締めつけるようになる。
インフラは「あつかえる対象」から「ただそこにある謎」へと変わった。
文明の根幹が、突然、手の届かないものになったのだ。
機能だけを残して、根拠を失った都市は、まるで崩れる寸前の塔のように見え始めた。
問題はすぐに突きつけられた。
「そもそも、これは何によって支えられているのか?」
どんなに探しても、仕組みを記した紙も、工事に必要な道具も見つからない。
都市は、誰も修理できない装置に依存しながら動き続けることになった。
そこで人々は気づき、人は問い始める。
「壊れる日を前に、私たちはどんな責任を負えるのか」
インフラは文明の骨格だった。
だがいまや、技術は手からこぼれ落ち、それは理解できぬまま機能を続ける異物となった。
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