問(そのもの)case(which)
人々は目を覚まし、朝食をとり、働き、眠る。ただそれだけの繰り返しに、誰も疑念を抱かない。
「なぜ働くのか」「なぜ生きるのか」と考える必要がなかった。
彼らは答えのみに囲まれ、日々の生活は効率的で、摩擦や衝突もほとんどなかった。
しかし同時に、希望も発見もなくなった、そこにはかすかな空洞があった。
問いを持たない者にとって未来とは、ただ昨日を薄く写したコピーでしかなかった。
進歩は止まり、文化は乾いた器のようにひび割れていく。
問いを喪った者は、平穏のうちに緩やかな停滞へと沈み込んでいった。
その日、別の世界に別の世界から「問い」が現れた。
他方で、問いに過剰な人々は、答えにたどり着くことなく無数の可能性を追い続けた。
子どもは「なぜ空は青いの」と泣き叫び、大人は「正しさとは何か」と夜ごとに目を覚ます。
彼らの夜は眠りに落ちることなく、朝は疲弊した眼差しのまま訪れる。
街は問いのざわめきで満ち、議論は尽きず、誰もが互いに答えを求め続ける。
けれど答えはない。
問いは増殖し、解答の数を超えていく。
混乱と絶望の中で、人々は自らの思考に追い詰められる。
そして無数の声が絡み合い、やがて誰もが己の問いに閉じ込められてしまった。
問いを抱く力そのものが、生を蝕み始めていたのだ。
こうして2つの世界は明確に分かれた。
問いを失った者は幸福の不自由に、問いに過剰な者は苦痛に満ちた自由に。
それは、どちらが幸福でどちらが不幸かさえ曖昧な、二つの世界の運命の姿だった。
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