危険物(その物) case.side

時間は流れ、法則は働き、存在と空間はあり、物体もある。


 そんな「普通の世界」に、あるとき突然、危険物が転移してきた。




 だがそれらは眠った状態ではなく、衝撃によって制御不能にだった。


 炸薬は着地の瞬間に閃光となり、建物を吹き飛ばす。


 密閉されていた毒は解き放たれ、風に乗って広がる。


 制御を失った炎の液体は爆ぜ、燃えながら地を這い、周囲を焼き払う。




 普段の世界なら、危険物は人間の手で管理される。


 爆薬には安全装置があり、毒という毒には容器があり、燃料には制御装置がある。


 しかし転移した危険物には、待機という概念そのものがなかった。


『現れる=作動』という形でしか存在できなかったのだ。




 こうして世界に刻まれるのは、ただの物理的破壊ではない。


 一度爆ぜればその地は崩壊し、瓦礫は秩序の証明ではなく脆さの象徴となる。


 毒が広がった場所は、誰も近づけない「空白」となり、場所を汚染していた。


 火に焼かれた跡は、新たな発火点となって次へ次へと連鎖を誘う。




 時間は進み、法則は確かに機能し、存在と空間も保たれている。


 物体も変わらずそこにある。


 しかし暴発した危険物が転移した世界は、安定の表面を保ちながらも、


 その内部にいつ崩れるか知れぬ臨界の火種を抱え込んでしまった。


 それは”どの危険物”も燃え尽きることなく残り続け、


 次の瞬間に再び爆ぜるかもしれない「見えない震源」となった。

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