最終話
「あ"〜さむ"〜」
靴を脱ぎ捨てて大急ぎで居間へ駆け込む。エアコンの修理が終わり暖かさを取り戻した食堂にはしつこいくらいのチーズの匂いが充満していた。
「おっ、ヒョンウォニヒョンおっかえり〜ん」
「今日なに〜?」
「キヒョニヒョンがチーズフォンデュ作ってくれた!」
ジュホナが素手でブロッコリーを掴んでアルミの鍋をかき回している。見た目は悪いが幸せそうな顔に美味しいって書いてあった。
「ヒョンウォニヒョ〜ン」
「ん〜?」
「ミニョギヒョン、帰ってるよっ」
ジュホナが目を思いっきり細めてチーズ伸ばしながら茶々入れるから思わず笑ってしまった。ベンチコートに積もった雪をタオルでとんとん拭いて長い廊下を抜ける。
デカイ窓から見える冷たい夜空に星屑が燦々と輝いている。扉を開けると俺とミニョクの香水が混ざった妙な匂いがした。相変わらず床も机もグチャグチャ。
「ミニョガぁ」
また俺のベッドで寝てる。昨日同様ベッドに手をついて肩をふわりと揺すってみる。
「朝だよー」
ミニョクの前髪をかき分けて人差し指でピンク色の唇を押してみる。唇つめた。こんな寒い中布団もかけずに何時間寝てたんだろ。
「ミニョガ〜」
起きないな、起こすの可哀想かぁ。ポケットに突っ込んだ遊園地の入場券を確認してふぅと一息つく。
机の上の参考書やらスナック菓子やらをそっと端に寄せると、あの日見た小さな紙袋が出てきた。まだ風邪薬飲ん…
「……………ミニョガ?」
向き直して肩をもう一度揺らす。今度はさっきよりも強く。
「ミニョガ、 おい、ミニョガ!!」
思い出す、昨日のミニョクの体温、今日はなんでこんなに冷たいんだ?全身から血の気が引いていく。静かな部屋に冷たい風が吹き込んでコーラの空き缶がカランと倒れた。
「ミニョガ!!っ…!ミニョガ!!!」
「どうしたのヒョンウォニヒョ…」
もうわけもわからずミニョクの体を抱きあげる。石みたいに重くて冷たい体を引き寄せるとだらりと自分の胸に収まった。
「ジュホナ、救急車呼んで、…」
「…え?な…」
「救急車…、っ」
「わ、わかった!」
「ミニョガ…起きて…ねえ……… …」
この小さな冷たい部屋で、一人で何度秘密を飲み込んで甘い夢を見ていたのだろう。
冷たい夜空に星屑が燦々と輝いている。星があんなに光ってるのは、あそこにもメリーゴーランドがあるからなのかな。
-------------------
『僕、歌手になるのが夢なんだ』
『…そうなの?』
『うん、内緒』
『俺も、同じ!』
『マジ?!』
『マジ』
『うわ〜!もっと早く知ってればよかった!僕たちさー、なんか似てると思う』
『うん、そうかも』
『高校受験なんてパパパ〜って終わらせて、大学受験もパパパ〜って終わらせて、絶対いつか一緒にビッグになろ』
『当たり前でしょ〜』
-------------------
『ヒョンウォナはやっぱすごいよな〜頭もいいし、全部一発じゃん』
『ミニョクもすごいよ』
『僕なんて全然、もっと頑張らないと!ギターとかも』
『わは、歌手の夢諦めてなかったの』
----------------
『ミニョクなら大丈夫だよ』
『うん、僕もっと頑張らなきゃ。ギターとか。』
『ギター諦めてなかったの』
------------------------------------------------
真っ黒の空に薄い雲がかかって今にも雪が降り出しそうだった。オイルが切れかけたライターを無闇にカチカチしてタバコに火を点ける。肺いっぱいに広がる不健康な味。
「誰も泣かなかったね」
「な〜」
「なんか食べに行きますか?」
あまりにも簡単な1日だった。簡素な板に囲まれた体躯はあの日と何も変わらなくて。ミニョガなんでこんな狭いとこ入ってんだ?って全員思った。
「注文しまくって俺らでファミレス潰す?」
「あはは」
「7人いたら潰せるっしょ」
わざと駐車場の砂利を蹴って音を出しながら歩く。もう夜中なのに、高層ビルには所々明かりが灯っていた。
「本降りになる前に帰ろうか」
「スーツベタベタになるしね」
切れかけた自販機の明かりが夜道を白く照らす。消えそうな細かい雪がコートに溶けて肩が冷たい。俺たちの会話はいつもと何ら変わりなくて、時間も気にせず時々ゲラゲラ笑った。
「あーーー寒いよ〜…早くエアコンつけて…」
「今日大部屋でみんなで寝る?」
「布団持ってくるのめんどくさいな」
かじかむ手に息を吐きながら長い廊下の電気をつける。もうショヌヒョンが布団をずるずる部屋から引きずって大部屋に入っていくのが見えた。
「ミニョガ〜、ただいま。」
デカイ窓から見える冷たい夜空には星屑が燦々と輝いていて、食堂からはキヒョンの小うるさい声が聞こえて、俺たちの部屋にはアンプに繋ぎっぱなしのシールドが絡まっていて、床には参考書が散らばっていて、ハンガーもベンチコートも二人分かかっていて、
『ヒョンウォナおかえり〜!』
『ヒョンウォナ、今日Bコード練習した見て聞いて』
何一つ変わってないのに
「ミニョガ、」
「ただいまってば、」
もう君がいない。
主題歌 正夢-スピッツ
https://youtu.be/algaC2jhu8s
あとがき
読んでくれた方ありがとうございました!「最初は似てると思ってた親友とどんどん差が開いて自分も自分の力で輝きたいと願いながらその親友に恋心を持ってしまい喜びと苦しみの板挟みから逃れられないミニョク」でした。でも一人で書いて鬱になっているのでミニョクはただの意識不明状態で2日後には元気に寮に戻ってくることになってます。(オチをぶっ壊す) イメソンがめちゃいいので一番だけでも聴いてほしいな!
星のメリーゴーランド ドアラ @ymnsi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます