第10話 雪の中の約束

 冬休みに入って数日、街は白い雪に包まれていた。


 亮は家でぼんやりテレビを見ていたが、スマホに届いた一通のメッセージに心臓が跳ねた。


 ――「東京行き、決まった」


 差出人は真司だった。


 慌てて電話をかける。


「おい、どういうことだよ」


「音大の冬期講習に合格して、特待生枠に入れたんだ。これで進学ほぼ確定だって」


 喜びを隠せない声。亮も「すごいな」と言いたかった。


 でも、その言葉は喉で凍りついた。


 数日後、真司から「渡したいものがある」と呼び出された。


 雪の積もる公園、白い息を吐きながら待っていた真司は、小さな黒いケースを差し出した。


 中には銀色のメトロノーム型のペンダントが入っていた。


「これ、お揃い。離れてても、同じテンポで歩いてるって思えるだろ」


 亮はその場でペンダントを握りしめた。


「……こんなの渡されたら、余計に離れたくなくなるだろ」


「離れても、終わりじゃない」


 真司の瞳は真剣だった。


「だから、約束しよう。俺が東京行っても、ちゃんと戻ってくる。音楽で成功して、胸張って会いに来るから」


 亮は唇を噛み、うなずいた。


「……約束だぞ。破ったら許さねぇから」


 真司が笑い、雪の降る中で二人は指切りをした。


 その夜、亮はペンダントを握ったまま眠った。


 心の奥の不安はまだ消えない。


 けれど、その小さな銀色の重みが、離れても繋がっていられる証になると信じた。




#BL


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