第9話 離れたくない音
期末試験が終わり、冬休みまであと少し。
教室では進路の話題が当たり前になり、友人たちは受験や就職の計画を楽しそうに話していた。
亮は机に突っ伏しながら、その輪の中に入れずにいた。
放課後、音楽室に行くと、真司は新しい楽譜をめくっていた。
「これ、音大の課題曲なんだ。試しに弾いてみようと思って」
明るい声が、亮には少し遠く聞こえた。
「……そんなにもう準備してんだな」
「そりゃあな。早くしないと間に合わないし」
真司は軽く笑ったが、その笑みは亮の胸に小さな棘を残す。
「俺はさ……まだ何も決まってない」
「だから一緒に考えようって――」
「いや、そういう問題じゃないんだよ!」
声が大きくなった瞬間、真司の指が鍵盤の上で止まった。
「……俺が東京に行くのが嫌なのか?」
亮は言葉に詰まる。
「嫌に決まってるだろ……。離れたくないよ。でも、止めたら、お前の夢を壊すことになるじゃん」
真司はしばらく黙っていたが、ゆっくり立ち上がり、亮の前に歩み寄った。
「俺の夢に、お前がいない未来なんて考えてない」
その言葉に胸が熱くなる。だけど、現実は残酷だ。
大学も、生活も、距離も――「一緒にいたい」だけでは埋められない。
窓の外では雪がちらつき始めていた。
真司がそっと亮の手を握る。
「……離れたくないな」
「……俺も」
その夜、二人の手は強く結ばれていたが、心の奥にある不安はまだ解けていなかった。
#BL
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