#24 パソコンと本棚
煌成に続いて部屋に入った俺の視界に飛び込んできたのはデスクの上の大きなパソコン2つ。椅子はご丁寧にゲーミングチェア。煌成が言った通り、生粋のゲーマーなんだろう。それと、たくさんの小説や漫画が並ぶ本棚。でもそれはひどく荒れた様子で、漫画は適当に積み重ねられていたし、小説はぎゅうぎゅうに詰め込まれたりしていた。それに、所々丸めた紙が置かれてたし、本同士の隙間に挟まったりもしていた。しかし、元々は綺麗に整頓されていたのだろうか。手のついていない上の方は規則正しく小説が並んでいる。
「......そんなにじろじろ見ないで」
釘を刺された俺は咄嗟に声の方を向いて謝る。
「あっ、すまんっ!」
「......座って」
既に、部屋の正面にあるローテーブルの前に胡坐をかいていた煌成に倣って、正座で俺も座る。俺たちの正面には蔭山秀一がいた。彼は俺や煌成よりも少し小さい背丈で、まだあどけなさが残っている顔だ。童顔というやつか。彼はいじっていたスマホを切って、テーブルの上に置いた。
「.....で、何話したいの。わざわざここまで来て」
いきなり切り込んでいくべきか....いや、それは不味いか。まずは打ち解けていかないとな。背筋を伸ばして改めて向き合う。
「まあ、まずは蔭山の事とかいろいろ知りたいかな」
「色々って何。煌成から聞いたんじゃないの」
「ほら、その.....」
ろくに考えず口に出したため、言い淀んでいると煌成が助け舟を出してくれた。
「いやーあれだよ、趣味とか。俺まだそういうのは話してないし」
「........そっか。まあいいけど」
「趣味は....ゲーム。ほら、あそこにパソコンあるでしょ。あれでよくやってる」
「いいね。俺も良くやるんだよ。何するの」
よしよし、良い感じだ。ゲームの話題なら十分ついていける。煌成はまあ...ゲームあんましないタイプだから話に入っていけねえかもだけど。
「......まあFPS系とかよくやるかな」
「え、俺もFPS系よくやるんだよね!何やってる?」
「んー...〇〇とか最近ハマってる」
「マジで!?俺もめっちゃやってる!!よっしゃ、今度一緒にやろう!」
「...いいよ」
「うし、じゃあフレンドコード送りたいから連絡先交換しようぜ!」
俺はいそいそとスマホを取り出してアプリを開く。自分のQRコードを提示する。蔭山は読み取り終わって、登録された俺のアイコンを見ながら呟いた。
「なんか、珍しいね。煌成の友達なのにゲーム好きなんて。僕だけかと思ってた」
「あーまあそうだな」
先ほどからテーブルに顎を付けてぶー垂れてる煌成を見ながら同意する。自分の名前が出てきたことで、その体勢のままこちらを見上げる煌成。
「んー?」
確かに。こいつ自身が陽キャなのでつるむ連中も基本、サッカー部やバスケ部の陽キャばっかでゲームに没頭する時間なんてないほど忙しそうな連中だ。類は友を呼ぶというやつかな。つっても、煌成は誰でもウェルカムってスタンスっぽいけど。だって俺と最初に話したときも.......あれどうだったっけか?......ま、今はそれよりもこっちだな。
「てか、いつからゲームやってんの?昔から?」
過去を振り返りそうになりながらも後回しにし、話題を続ける。蔭山は思い出すかのように考え込んで、答える。
「小学生くらいからゲーム自体はやってたかな。で、中学生ぐらいでパソコン買ってもらった感じ」
「へえ、俺も似たような感じかな。父親が大のゲーム好きでさ、パソコンでやってたの見てからだわ」
昔の記憶なので朧げだが、ゲームをしている父親の真横で椅子に座って見ていたな。あ、ちなみに言っておくが、父親というのは俺の前の父親だ。
「.....で、今は毎日ずっとゲームしてるね」
おおう、急にぶっこんできたな。おじさんびっくりしちゃったよ。...てか煌成もうほぼ寝かけてんじゃねえか。........ま、いいタイミングだしこっから聞いてみるか。
「あー....それはその...高校行ってないからか?」
無言のまま首を縦に振る蔭山。その顔はだんだん暗さを帯びてきたように感じる。
「そっか.......じゃあ家から一歩も出てなかったり.....とか?」
この質問だけで人影云々を判断したりはしないが、一応聞いておくに越したことはない。さあ、なんて答える。
「うん。日中は基本そうだね」
「そっか」
何が怒りの引き金になるのか分からない今、下手な返しをしてしまうは避けたいので無難な相槌を入れる。そうかそうか日中は基本な。..............ん?その答えを反芻していると、軽い違和感を覚える。が、すぐに飲み込む。......いやまあ言葉の綾っつーかそういっただけか。ここで無理やり聞き出すのはダメだ。....うし、次だ。
「.....てか、パソコン見たいんだけどいい?俺そういうの見るの好きなんだよ」
「.....うん、いいよ」
俺は立ち上がってパソコンを周りを観察する。これは影山があのゲームの制作者なのかどうかを確かめるためだ。......ほんとはちょっぴり興味を持ったとかないんだからねっ!とまたもや出てきたツンデレちゃんを放り投げて、パソコンの正面に立つ。
「おおすげえな。これ絶対使いやすい奴じゃん。....な、ちょっとだけやらせてくんねーか?」
しっかり高性能のパソコンだったので褒めつつ、後半に狙いを潜ませる。....どうだ。
「んー.......まあいいよ。ちょっといい」
「さんきゅ」
蔭山の言葉に従って俺は横にずれる。俺の代わりに正面に立った蔭山は、パソコンを起動してパスワードを打ち込んだ。なんとなく打ち込むところを見るのは気が引けたので煌成の方を見る。.......ああだめだこいつ完全に寝ちゃってら。
「...開いたよ」
蔭山そう言って本棚の方へ向かって整理をし始めた。本を綺麗に棚にしまいこみ、プリントと思しき紙類をゴミ箱に捨て始めた。客人が来たから掃除しているのか?偉いな。
「へーこんな感じなんだ、すげー!!」
とりあえず俺は、それっぽいことを言いつつあるものを探す。それは......アプリだ。あっアプリといってもただのアプリじゃないぞ。ゲーム制作アプリだ。本当にあのゲームを蔭山が作ったんならその証拠として残ってるはず。ホーム画面にズラッと並ぶアプリから、それらしいものを探していく。怪しまれないよう合間合間で
「おっ、このゲームもやってんだ!」
とか言いつつ1つ1つ確認していくと、その途中で見慣れないアプリを見つける。他のものと違ってゲームっぽさの無いこちらは英語で書かれていることから、名前だけではどんなアプリなのか想像できない。.....めんどくせえし、いっそスマホで調べてみるか。そう考え、画面から目を離さずポケットからスマホを取り出した瞬間に声が掛けられる。
「.....ずっとホーム画面見てるけどおもしろい?なんか気になるのある?」
その声の主、蔭山は俺の右肩側からパソコンを覗いた。
「うおっ!!......びっくりした」
突然の声による驚きと、今覗かれると確認ができないんじゃないかという焦りがスマホを持つ右手にも伝わって落としかける。なんとか掴みなおしてポケットにしまう俺は必死に考える。まずいまずいどうしよこれ.....いやまてよ?俺が至ったのは
「なあ、蔭山」
「ん?」
「このアプリ、なんだ?」
蔭山に何のアプリなのか聞くという事だ。別にアプリ自体おかしいことでもないしむしろ普通の事だ。
「あぁ、それ......」
言おうか悩んでいるのか、蔭山は何かを言いかけてすぐに口を閉ざす。同じ体勢のままジッと画面を見つめる彼は一息ついてから、答えた。
「それは......ほら」
カーソルを動かしてカチカチッとクリックして開く。その画面にはコードや下書きなどなにやら複雑なプログラムが書かれている。......つまり
「ゲーム作る用のアプリだよ。こうやってプログラミングして出力してからいろいろやるの」
「へぇ......すげえな。ゲーム作れんのか」
そうであれば、という答えが綺麗に返ってきて怖いぐらいだ。では、本当に彼があのゲームを作ったのか。......今からもう聞くか?いやでもな....。
「そうそう、まあ下手っぴだけどね」
「いやでも作れるだけすげえよ。天才じゃん」
思考に集中してるせいでそんな返答しかできない。....いやほんとにどうしよ。俺どうすりゃいいんだ。やはり出てこない結論。自分の脳みそを恨みつつ、蔭山が操作する画面を見ていると不意にカーソルを離した。
「......ちょっとトイレ行ってくる。下手に動かさないでね」
「...おう、分かってる」
バタンと扉が音を立てた。扉を見る視線を戻そうとしたその時、足元のプリントに気がつく。どうやら本棚に残っていたものが、今ので落ちてきたようだ。拾い上げて、元あったっぽい場所に置いておく。今目に入ってきたプリントの内容を頭に残したまま煌成を叩き起こす。声を掛けながら何度か肩を叩くとようやく意識が覚醒したようだ。ゆっくり目を開く。
「ん......んぁ....?」
「おい、起きろ」
そう言うと、煌成は上体を起こして口元を拭う。ゆっくりと開いたその目は何事だと言いたげだ。俺はそんな寝坊助に容赦なく伝える。
「なぁ、蔭山なんだけどさ」
「ぁぁ....ぅん.......うん」
「あいつやっぱり怪しいわ」
「ぅん.......そうか........え?」
頭が働いていないせいで生返事だったが、会話のおかげで完全に目が覚めたようだ。いや、会話のせいでというべきかもしれない。煌成はこちらを向いて足を正座に組み直す。
「え、なんで?何があった?」
唖然とした顔の煌成に、俺は自分の考察を交えた事実を伝えていく事にした。
「まずさ、普段外出てんのかって聞いた時にさ......てか待って。お前いつから寝てた?」
「いやまあ正直お前らがゲームの話に入った時には半分寝てたな」
「分かった。じゃあ続き話していくな。そんで聞いた時に、あいつは日中は基本家にいるって答えたんだよ」
そう、1つ目はこれだ。あの時は無理やり納得させたがどうしても腑に落ちない。やはりあの時話を遮ってでも聞くべきだったか。
「それがどしたんだ?」
「そうなんだよ。日中は外に出ないって言い方だと、まるで夜は外に出てるみたいじゃねえか」
うーん、と唸る煌成はすぐに質問してくる。
「まあ確かに言い方はちょっと不思議かもだけど、もし夜外に出てたとして、それが学校行ってるとは限らねえだろ?」
そうだ。煌成の言う通り、仮に夜外出していたとしてもそれが学校に行っていることの裏付けにはならない。むしろ、普段外に出てるとしたら学校に行くなんてますますおかしい。肯定しつつ俺は話を続ける。
「そうなんだよ。まあ一旦少し怪しいぐらいの材料にしといてくれ。そんでその後にさパソコン見せてもらったんだけど、やっぱゲーム作ってた」
「それが怪しいところか。......でも秀一があのゲーム作ってたとして、それが学校行ってたことには繋がんねえだろ。そもそもあのゲーム作ったとは限らねえし」
もっともな反論だ。俺もその時点まではそこまで怪しいと感じなかった。でも、その後のアレで蔭山に対する怪しさが固まったんだ。
「......そうだよな。お前の言う通りだよ。俺もその時まで特段怪しいとは思わなかった。......でも、その後のこれだよ。問題は」
俺は本棚から、先ほど置いたプリントを取ってきてテーブルに置く。プリントを持って読み込む煌成を見ながら最たる疑念点を話す。
「そのプリント、本棚に元々置いてあったやつでさ。なんて書いてある?」
「あー......[体育館倉庫改装についてのお知らせ]って書いてあんな。てかこれ、俺たちもこの前も配られたやつじゃん。....で、これの何が問題?」
「......それがここにあるのが問題だろ」
「は?なんで?」
簡潔に分かりやすく、淀みなく伝えられるよう頭を動かしつつ理由を話していく。
「いやさ、不登校の奴のそういうプリントは家に届けられんだろうけどさ」
上手く論を締めるために、いつも眠っている頭を回す。そして言う、1番の疑問を。
「それってわざわざ本人の手元まで行くか?」
「........」
煌成は何か掴めているようでまだ納得できないのか、黙ったまま話を聞いている。俺的にはその方がやりやすいので助かる。
「さっき聞いた話だと、蔭山は基本部屋に篭ってるんだからさ、届けられたプリントを玄関に取りに行くわけがないじゃん。まあ蔭山に限らず、普通は母親が受け取ってんだろうよ」
「....でも、おばさんが受け取った後に秀一に渡したかもしんねえじゃん」
その反論もばっさり切り捨てる。少し心が痛むが致し方ない。
「..いや、言っちゃ悪いけど不登校の息子に体育館倉庫の改修なんて知らせてどうすんだ?そういうのは親が持っとくもんだろ」
「......じゃあつまりどういうことだよ」
むすっとした顔の煌成。これを言えばその顔をますます不満で埋める事を分かってはいるが、伝える他ない。そして俺は、全てを集約して出た結論を口にする。
「あいつは学校に行ってるって事だよ」
「......」
「だから、帰ってきたらそれについて聞く。お前に知っといてもらおうと思って起こした」
「.....分かった」
沈んだ声で煌成が答えたその瞬間、ガチャッと音がした。その音は始まりの合図のように思えた。
「......ごめん、おまたせ」
実は俺が二重人格で配信者?そんなわけねえだろw らむす。 @gumi_saikoudesu
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