第二十三章
23時の風は気持ちいい。
高校生がこの時間帯に出歩くのはダメだけど、ああ、言うのって中学生あたりがよく補導される。バイトをしていると普通にこの時間から帰ることあるし、塾だって遅くなると普通にこの時間になる。だから最近はトー横以外補導されない。トー横にキッズが集まるのは寂しいが群れるからだ。数学と違ってマイナスにマイナスをかけてもプラスにはならない。寂しいは寂しいままで満たされることはない。だから売春をしようとも身体の欲は満たされても、心の欲は満たされない。最近はメンズも売春する時代だ。見た目が良いとオジ様がメンズを買う。3万をちらつかされると路頭に迷って、トー横まで迷い込んでしまった彼らはメンズ同士だという抵抗よりも、今の困窮を一時的でもどうにかしようと歌舞伎町のホテルに入る。そこで初めてを知る。お酒でイかされて、知らない性欲の快楽に溺れさせられて、タバコも吸わされて、大人になった気分になる。少しの優越と背徳感と酩酊感が心地よくなる。悪い大人は子供のそういった快楽に溺れるさまを利用する。都合の良い性処理玩具としか見ていない大人にとってトー横キッズは格好の餌だ。だから警察もシェルターも補導するが一時的な避難じゃ意味がない。彼らは恒久的な安息の場所を求めている。でも、やっぱり行く当てがないから元の場所に戻る。あそこは居場所じゃない。流れる木の葉が堰き止められているようなものだ。
もちろんシェルター側もDV親や叔父、もしくは祖父母、未成年で妊娠した子が夫から逃げるための場所として、そうした人に会せない様にしているがシェルターの特性上、調べればすぐに場所がわかるから、結果不安になって戻ってしまう。
まぁ、彼らもある意味トラウマを抱えてDVしてしまう背景があるけど、その話はたぶんしないかな。長々と脱線したけど、今面白いことになっている。
「アイドル? 君たち未成年だろ?」
警察は怪訝そうに言う。
「未成年のアイドルが居ないんですかこの国は」
竜胆が言う。警察は面倒くさそうにメモを取る。
「とりあえずそのマネージャーさんには連絡取れたの?」
警察は反抗的な竜胆より大人しい春樹に声を掛けた。
「あ、はい。この後来てくれるみたいです」
その反応に警察は納得した。
15分後。
私服のマネージャーなんて初めて見た。走って来てくれたみたいで息を切らしていた。
「すいません、うちの子が」
「貴方がマネージャーさん?」
「はい、これ名刺です」
名乗らないのは多少失礼な警察への抵抗らしい。
「ふーん、まぁ、いいや。じゃあ、身分も確認できたしあといいよ」
「じゃあ、帰ろっか」
マネージャーは警察に見向きもせずに竜胆たちを連れた。
「ああークッソむかつくあの警察! 税金で食ってんなら納税者に逆らってんじゃねぇよ!」
「荒れてんなー」
あの後、むしゃくしゃするから一杯飲ませてと寮に来たがマネージャー寮は売れてる事務所のわりに一人暮らし専用アパートみたいな場所だった。
「飲んでいる途中だったのかな。空き缶一杯」
春樹が空き缶を片付ける。
「そんなの良いから飲みの相手になって!」
「未成年だよ」
「だからなに? 飲めないっていうの?」
「飲めないです」
春樹は酔った大人って面倒くさいと思った。
「てか、こんな状態でどうするんだよ」
「ほっておくわけにもいかないよね」
「あのまま身元引受だけにしてくれればよかったのに」
「むしろ身元引受手続きでもないから、適当な警察だったね」
本来ならそう言うのは警察署でやるもので、現地でどうこうというものでは絶対ない。
「どうする? 放っておいて帰る? どうせ家だろ此処、タクシー呼ぼうぜ」
「そうだね、僕らも明日の学校遅れちゃうし」
「もう今日だけどなー」
「ほんとこの仕事してると起きて日付跨ぐのザラだね」
春樹が笑う。
部屋にメモを残してタクシーを呼んだ。もう終電逃すのなんて日常になってきたからタクシーの運転手の番号を控えている。マネージャーのアパート前に来てもらった。そこで一緒にタクシーに乗った。なんてことない仕事上のタクシーの使用。でも、世間のクソみたいなこじつけ記事を作る材料にはもう充分だった。
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