第二十二章

 「俺は昔、スタープラチナでアイドルをしていた。そこで春樹と出会ったんだ。春樹は俺よりも優秀なアイドルだ。誰よりも努力家でファンの心情を察して最大限のファンサをしている。俺みたいなビジネスアイドルと違い本物のアイドルだ。遅くまで残ってレッスンスタジオで練習している春樹にアイドルが残っていても残業代なんて出ないって思っていた俺は冷めた感じで最初はアイツの事を見ていた。だがその努力がライブで生きる様子を見て、俺もいつの間にかアイツに魅了されてアイツの隣でずっとアイドルしていきたいって思った。アイツが中一の頃からアイドルしていたのに対して、俺は高校からアイドルになった。当初は習い事の一部でしかなかったが、アイツに感化されて本気になった。俺は負けず嫌いだからアイツの隣は俺しかいないと思った」

 春樹は遅くまでレッスンスタジオでダンスしていた。

 竜胆は暗くなった廊下を歩きながらその様子をドア越しに眺めていた。

 春樹は汗だくになりながらダンスをしていた。

 「10時だぜ俺らの労働時間はとっくに過ぎてるぞ」

 「あ、竜胆、お疲れ。大丈夫自主練だから」

 スタジオに入った竜胆に春樹はそう言った。

 竜胆は飲みかけのポカリスエットを渡した。春樹はそれを飲む。

 「僕さ中途半端が嫌いなんだよね」

 「誰だって中途半端は嫌いだろ」

 「うん、そうだけどさ」

 春樹はポカリを飲みながらひと息尽く。

 「僕さアイドル大好きなんだよね。ファンのみんなが喜んでくれるの大好きだし、僕を見てくれるのめっちゃ気持ち良くて、なんかやってて自分て感じがする。あ、変だよねこんな気持ち」

 「いや、分からなくはない。分からなくはないけど。俺には共感できない」

 「竜胆にとってアイドルはビジネスだもんね」

 そう言葉にしながら春樹はどこか寂しそうだった。

 「お前17だろ? 高2でそんな真面目な事考えんなよ」

 「そうかな、高2って結構大人だと思うけど」

 「成人してもないだろ。俺にとっては全然子供だ」

 「自分を子供だって思っている人は自分が思っているほど子供じゃないよ」

 「自分を大人って思っている奴ほど子供なんだよ」

 「僕は子供じゃないよ」

 そう春樹は頬を膨らませて怒った。ほら、子供じゃん。

 「もう少し練習したいんだ。作曲者の意図を掴めるまでずっと」

 「ならもう少し休め。根詰めて何が掴めんだよ」

 そう言って竜胆はタオルを春樹に被せて汗を拭く。

 「たく、こんな汗だくになって何がアイドルだよ。シャワー浴びて来いよ」

 「え、だってこの後も練習するし」

 「もう上がりだ。てめぇは根詰めすぎだよ。飯奢ってやるから今日はもう上がれ」

 「そっか。うん、わかったよ」



 そう言って春樹はシャワーを浴びに行った。


 「まさか焼肉とは………」

 焼肉きんぐの店に寄った。

 「いいだろ、腹減ってんだろ」

 「こういう時、もう少し消火に良いものを———」

 「てめぇは徹頭徹尾アイドルかよ。スタミナ付けろ。いいか俺らはアイドル以前に高校生だ。高校生ってもんは仕事より青春するのが仕事だ」

 「いや、勉強じゃ」

 「うっせ、とっとと食えや!」

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