第六章

 日曜日のお昼。

 「叶は卒業したら大学行くの?」

 「とりあえずは」

 「どこ行くの」

 「〇〇大学」

 「いいね、僕はまだ決めてなくて。でも、就職も決められなくて。フリーターしちゃうのかな」

 寂しそうに焦るように悠は言う。

 そんな悠を叶は抱きしめる。

 「迷っていいんだよ。まだ一年ある。ゆっくり悩んで、ゆっくり考えればいい。なんならもう少し悩んでもいい。高校の間だけで人生考える方が難しくて、みんな焦りながら答えだしてんだ。それが正しい奴もいれば、間違った奴もいるかもしれないし、なんならずっと答え見つからない奴の方が多い。だから悠はゆっくり悩んで答えを見つけたらいい」

 そう言いながら叶は悠の頭を撫でた。

 「悩んでいること言っていい?」

 「うん」

 「僕さ、女の子の格好するけど、別に女の子になりたいとか憧れているとかじゃないのは中学の頃、言ったよね?」

 「うん」

 「それでいろんなショート動画見たんだけど、僕ね精神的無性別者らしくて、性別にとらわれない人のことというらしくて、でも、僕の事は性自認が男らしくて、そういうのって流動的性自認で、男と女の比率が僕の中で7:3とか8:2なんだよね」

 「ほとんど男だけど女のあるってこと?」

 「うん、難しいよね?」

 「いや、大丈夫だ」

 「それでもね、叶の事大好きだからゲイなのかなんだろうなって思って」

 「え、それ迷うことある?」

 「え」

 「いや、俺のこと好きって気持ちがゲイかどうかとか今必要か。悠が好きな性別が悠の中のどの性別とか好きなことに関係あるか? 俺、性自認完全に男だけど別にゲイってわけじゃないし、男に反応もしない。それでも、悠の事は好きだし、悠がどんな格好でも好きだし、悠と一緒に居ると幸せな気持ちになる。抱きたい気持ちが強くなる時もある。というかもう抱きたい」

 「ああ、前半良いこと言って後半で台無し」

 「いや、好きな人男なら抱くだろ!」

 「オス全開過ぎるよ! あ、でも叶らしい」

 なんだか悩んでいるの馬鹿らしくなったと悠は言った。

 それ、俺がバカだってことか? って叶は怒ったけど、そうじゃなくて自分を全開で出している叶が本当に羨ましくて、憧れ、好きだ。

 「僕ね、叶の事本当に大好き」

 「俺も悠のこと大好きだ」

 「僕の事どこが好きなの?」

 「まず、可愛いのと繊細なのにファッションに芯が入っていて、自分はこうだからこういう格好したいって芯が入っていて、そこから色々勉強していて、性で悩んでいるけど、その悩みながら色々と前に進もうとしているところが強いなって思うし、その自分を出しながらショート出しているって尊敬する。あと―――」

 悠は止める。

 恥ずかしそうに。

 「あとな―――」

 「止めたよね!? ねぇ!? なんで続けるの!?」

 「あと、脱がせた裸がえっ、んnっ、エロくっくって……んんっ!!」

 必死に口を塞ぐけど強引に話そうとする叶。

 「オッケー、分かったもう言うな。ね、言わない?」

 頷く叶。それに安心して叶の口から塞いでいた手を放す。

 「で、まずどの辺がエロいかというと」

 「ねぇ!! 叶きらい!」

 再び塞ごうとしたが叶は逃げた。

 「で、まず細い身体がエロいだろ、色白だし」

 「ちょっと!?」

 そう言いながら部屋から出て逃げる叶を必死に追う。

 階段を降りながらもまだ言い続ける叶に悠は枕を投げながら阻止しようとする。

 「よがっているものエッチだろ、涙ぐんでいるところとかアソコ疼くわ」

 「勝手に疼かせてろ! え、まってどこ行くの!?」

 玄関のドアノブに手を掛ける叶に必死に追いついて止める。

 叶はめちゃくちゃ楽しそうに笑顔で開けようとして、なんなら何度か少し開いたドアに大声で言おうとするんだから、必死に閉じるを繰り返していた。

 「何なのこの人! さいてーー」

 「やめて欲しい?」

 「うん、やめて欲しい」

 「わかった」

 その言葉に安心して力を抜いたら、またドアを開けようとする。

 「エッチするときに小さいのに勃起するとかエロすぎんだろ!!」

 「ああ、やめて!!」

 また必死に閉じる。聞かれた!? 聞かれた!? だれも歩いてなかった!?

 必死に確認する。

 「いや、そこまで確認できなかった」

 「っていうか社会的にあなたも死ぬよ!?」

 「覚悟の上だ!」

 「いやバカ! Sに全振りし過ぎ!」

 そのあと、ぶちぎれた悠が部屋で叱る。

 人様の世間様の迷惑考えなさいとか、後先考えないのって、それでSなの? 恥ずかしィね? って言いながら叱る。たまにこうやって叱らないと叶はどんどんエスカレートするから。

 っていうか立場逆転してない? もしかして叶マゾ側でもあるの?

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