第二十五話 未来に繋がる心

目の前のまぶしさにクラクラする。俺は何をしていたんだっけか?

そうだ、小鳥の姿をした神様と話をしていた気がする。随分とメンタル弱目で現実から目をそらして、自分の楽しかった過去の記憶の中に引きこもった小さな神様と。


それからどうした?また視界が明るくなって、、、ここはどこだ?


「美咲さん!大丈夫ですか!?」


「おい!美咲!どうしたんだよ!!」



はっ!と赤と青の大きな声で意識がはっきりする。

視界に移るのはヒーローのみんなと、現代の景色。見慣れてるはずのビルや家屋や車が酷く懐かしく感じる気がするな。なんだかほっとする。

感慨にふけっているが、気づけば俺は美咲の隣にしゃがみこんで、肩に手を置いている状態だった。



俺がきょろきょろと周りを見回していると、



「大地君?どうしたね?」



黒に不思議がられた。俺が居なくなったことに驚いてないということは、どうやら俺が向こうに行っている間はこっちの時は止まっていたとからしい。

結構長いこと向こうにいた気もするんだが。



「僕の伝達の力の影響かな?こっちでは時間は経っていなかったみたいだね。」


なるほど、神様の影響下で起こった現象だから、時間の概念もなかったと。ん?


小鳥の声がして石碑を見る。そこには先ほどまで会話していた小鳥がこちらを見て首をかしげていた。


ちゃんとこっちに来れたんだな。この引きこもりめ。



「ちゃんと来れたよ、君のおかげかな?ところでそこの泣いている子、どうしたんだい?」


『わからないんだ、ここに着いたときは普通だったんだが、気が付いたらこの状況で話しかけても返事もなくて』



声に出さずに説明すると、小鳥は黄の目の前まで飛んできて心配そうに見上げるそぶりをしている。



「この子も...君ほどでは無いが、変わった力を持っているんだね、僕の記憶から悲しいという感情を読み取ってしまったんだろう、申し訳ない」



そこまで言うと小鳥は黄の膝の上にひょいと飛び乗った。



するとさっきまで泣いていた黄が泣き止んだ。というか今気づいたが、小鳥の声は俺にしか聞こえていないらしい。みんなが小鳥の動きを見て驚いている。



「....だれ?」


黄が自分の顔を覆っていた両手をはずす。


「美咲さん!」


「美咲!」





「....!?」


黄を見上げていた小鳥から声にもならない驚きの感情が漏れる。


「まさか…そんな。君は…いつもお参りに来てくれた....いや、そんなはずは無い。ここはあの時代じゃないのだから…」


小鳥の声がすぐに落胆の声に変わる。



「あぁ....神様。やっと、やっと会えた....」

美咲は震える声でそう言うと、また涙がこぼれてくる。


「美咲、この小鳥のことがわかるのか?」



「大地君....、うん。ここに着いたらね、いきなり見たことの無い昔の記憶みたいのが頭に流れてきて、そこで子供の私は神様って呼ばれていたこの小鳥さんにいつもお話ししに行ってたの」


少し、黄の口調が子供っぽくなっている。その記憶のせいか?



「小鳥さんはいつも私たちを助けてくれて、病気になっちゃったお友達もお母さんも、小鳥さんの持ってきてくれた薬草のおかげで助かって。

小鳥さんが大好きだった。でもある日大きな嵐が来て、みんな飛ばされちゃって。私も怪我をして動けなくなっちゃって。でもずっと小鳥さんの声が聞こえていたの!『みんな逃げて!死なないで!』って。でもすぐに嵐の音にかき消されちゃって。

小鳥さんのおかげだと思う。いっぱい死んじゃったけど、ちゃんと助かった人たちもいた」



「君は?君はどうなったんだい?ちゃんと生きれたのかい?」


小鳥は一生懸命に話しかける、でもその声は俺以外には聞こえて....



「動けなかったけどちゃんと幸せに生きれました。残念だったのは、あれ以降歩くことは出来なくなっちゃって、神様に会いに行く事が出来なかったことだけです。あの記憶は私自身のじゃないですけど、また神様に会えてうれしいです!会いたかったです、神様!」


涙をこぼしながら黄が笑顔を見せる。

それはいつも見せるいたずらな笑顔じゃなく、少女が心の底から嬉しい時に見せる笑顔だった。  




…あれ?小鳥の声が聞こえてる?



「小鳥の声が聞こえているのか!?」



「そういえば、違和感なかったスけど途中からその小鳥の声なのか男の声が聞こえるっスね」


いつの間にかみんなにも小鳥の声が聞こえていたようだ。青なんて二人の話を聞いて号泣している。



「そうかそうか…君は生きることが出来たか!それなら良かった! それで?今の君の名前は?」


「私は、東雲美咲 といいます。多分...ですけど、あの子の生まれ変わりです」


「....そっか!そっかそっか!!」


小鳥の声は今までと比べ物にならないくらいに明るくなり、嬉しそうに羽ばたいた。



「…ただの一般人君、君に会えてよかったよ。僕は今までで一番の気分さ!僕はちゃんと助けることができていたんだ!」



そう言いながら小鳥は石碑の上に飛んでいく、と一瞬まぶしく光った。

次の瞬間、石碑には幼顔の青年が腰掛けており、こちらを見て微笑む。



「東雲美咲、僕を好いてくれた、僕の大切な存在である少女の生まれ変わり。君は変わらず僕の大切な存在だ。君と君の大切なものを今度こそ僕が守ると誓おう!」



ふわりと浮かび上がると神様は、青空の中で再び光、今度は大きな大きな黄色い

鳥に姿を変えた。


「ヒョロロロロッ」


空高く鳴き声が響く。琥珀のような光が尾を引き、鳥は雲の向こうへ消えていった。


風が止み、静寂の中で、美咲の手の中にそっと何かが残された。それは、金色の羽を模した髪飾り。ふんわりと琥珀色の雲をまとう、美しい鳳凰の意匠だった。


美咲はそれを胸に抱きしめ、目を閉じる。


「……ありがとう、神様」


風が優しく吹いた。まるで、神様が「こちらこそ」と答えたように。

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