第二十三話 石碑に宿る思い

 飯を食ったあと、さぁ解散……かと思いきや。なぜか俺も連れて行かれることになった。いや、ほんとになぜ。


 「じゃあ行ってらっしゃい」で済むと思ったんだけどな。俺の右腕をがっちりホールドした青がニッコリ笑って「さぁ行きましょう」だもんな。



 そんなわけで俺は、例外なく例の石碑を見に行く一行に含まれている。


 中心街を抜けてしばらく歩いて、住宅街も抜けたその先に現れたのは、切り立った崖と――その上へ向かってひたすら伸びていく長い長い長すぎる階段。車道もぐるっと迂回して上まで続いているようだ。

 え、これ登るの?今から?ほんとに?


 横を見ると、黒の目から完全に光が失われていた。うん、同志よ。俺も全力で登りたくない。



「ぜーっ……はーっ……!」



 登り始めてから10分は経っただろうか。汗が滝みたいに流れ落ちてくる。太ももがプルプルしてる。

 止まりたい、休みたい。けど後ろから青が「大地さん頑張って!」って背中を押してくるもんだから止まれない。鬼か。



「なぁ、一度休憩しないか? 権三さんがやばい」

 振り返ると、黒が酸素を求める魚みたいに口パクパクしてた。死ぬ。これ死ぬぞ。



 ちょうど広めの踊り場にベンチがあったので全員で小休止。



「ひゅー……ひゅー……」


 黒の呼吸音がもはやホラー。心臓に悪い。



「みんな体力あるなぁ。俺もう足ガクガクなんだけど」


「大地は運動不足なんだよ。権三さんならまだわかるけど」


「私と一緒にジムでも通う?」


「わしも……少しは鍛えんとな……」



 いや、赤も緑も黄も汗ひとつかいてないんですけど。人間か?君ら。



「それにしても、こんな場所に階段なんて何のために作ったんすかね?」


「上には住宅街があります。大きな家ばかりで、富裕層が住んでいるんだと思います」

 

 青が解説する。なるほど、物知り中学生。そういや小学生の時に調べたって言ってたっけ?


 息を整えて再び登り始める。意外と残りは楽に感じた。黒も、さっきよりは落ち着いた表情。


「着いたー!」

「景色いい~! 風が気持ちいいわね」

「もっと気軽に来られたら最高なんですけどね」


 やっと頂上。広場があって、真ん中には小さな噴水。周りはベンチで、観光スポットっぽく整備されている。周囲は木々に囲まれていていい感じに住宅街からの視線隠しになっている。少しおしゃれなデザインの街灯が備え付けられているので、夜に来たらものすごくムードがあるんだろうな。


 確かにここから見える景色は絶景。アニメ映画のワンシーンに出てきそうな広場だ。

 正面には素晴らしい景色、おしゃれな噴水広場、背後には高級住宅街。うん、確かに金持ちが住んでそうな雰囲気。



 広場を観察していると隅の方に遊歩道を発見した。

 

「確か、ここだったと思います。少し歩くと石碑があるんです」

 

 青の案内でぞろぞろと歩いていく――しばらく歩くと林の途中に切れ目があってその先にどんと大きめの石碑がたたずんでいた。



 大きな石碑。古びてて、表面には何か彫られていた痕跡があるけど、もうほとんど読めない。少し風化している感じが歴史を感じさせる。



「お~、これがその石碑かぁ」


「文字は全然読めないっすね」


「私が昔来たときも、もう読める状態じゃなかったです」


「ふむ……かなり古いものじゃな」



 ん~、来てみたはいいものの、調べるも何もないよなぁ、周囲に何かあるわけでもないみたいだし。

 しかしきれいな景色だな、ゲームとかで山のに刺さっている伝説の剣を抜きに来た。みたいな景色が目の前に広がっている。伝わらないかな?



「昔はここから見えている、正面当たりのあの場所に村があったそうです」


「街の中心は向こうだぞ?」


 赤が階段の方向を指さす。確かに中心街があるこの街の中心は向こうだな。


「時代とともに、より便利な立地へと中心が移動したんじゃな」


あぁ、なるほどそういうことか。路線とか道路とか、だんだん整備されていく中でより人が集まりやすく。そこの周りに商業施設ができて、結果中心がそっちに移動したと。





「う……ぐすっ……」




 ……ん?今の声?



 振り返ると、美咲がその場に膝をつき、両手で顔を覆って泣いていた。覆っている手からぼたぼたと涙が太ももにこぼれ落ちている。



「!? 美咲さん!?」

「ど、どうしたんですか!? 怪我でも!?」



 赤と青が慌てて駆け寄る。俺も心臓が跳ねた。

 でも美咲は黙ったまま、涙だけが溢れている。答えない。



「おい、美咲、本当に大丈夫か!?」

 しかし返答はない。不安になり俺も横にしゃがみ込んで肩に手を置く――




 周囲から何の音も聞こえなくなったと思った瞬間。






 気づくと、俺の目の前には見たことのない景色が広がっていた。

 石碑はなくその代わりに小さな祠が立っていて、街が見えていた場所には古い時代の村と呼べるものがそこにはあった。


「みんな!?」


 振り返るがそこには誰もいない。泣き崩れていた黄の姿もいなくなっている。



「陽翔!澪!悠斗!美咲!権三さん!?」


「くそっ....ここはどこだ?一体どうなってんだ??」

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