第六話 黄色い閃光、現る!

 今日は世の中は祝日。商店街もいつもより人が多い。しかし俺の仕事はなぜか忙しくならず、こうやって世の中の流れと同じように祝日を楽しんでいるのだ。



 そんな俺が今何をしているのかというと――藤原大地は、コンビニのおにぎりコーナーの前でツナマヨと高菜の間で悩んでいた。

 人生の選択って案外こういうときに重い。ツナマヨは鉄板だし、高菜は裏切らない。どっちを手に取るかで午後の気分も変わる。


 ツナマヨで濃厚な味を楽しむべきか?いや、少し重たいから高菜ですっきりさせておくべきか?


 

 なんて真剣に考えていたら、外からドドンと爆音。コンビニの天井がギシギシ震えて、店内の客が一斉に外を見る。俺もつられて窓を覗いたら、そこにいたのは――道路をバリバリ踏み砕きながら迫ってくる灰色の巨体。




 岩みたいな外殻、無数のトゲ、両腕はまさに岩塊。


 怪人だ。あーあ、また今日もかよ。





「烈火一閃――変身!」


「解析開始。最適化――変身モード、起動。」




 どこからともなく声が響き、赤と青の光が交差する。現れたのはもちろん、赤レンジャー神崎陽翔と青レンジャー姫野澪。


 


 赤は今日も元気いっぱい、炎の剣を振りかざす。


「喰らえっ! 紅蓮斬りィ!」



 だが剣は外殻に弾かれ、ただ火花が散るだけ。



「装甲が、...予想以上に硬い!」



 青は冷静に光の斬撃を槍から繰り出すが、これも弾かれて逆にビルの壁を砕いた。



「ちっ……!」



 赤が接近戦を仕掛けるも、分厚い腕に薙ぎ払われて剣がギシギシ軋む。足元がズルッと滑り、彼の膝が笑った。



「陽翔先輩、下がって!」



 赤が光の盾を展開するが――


「グオオオオッ!」



 怪物の口から高温の衝撃波。盾は一瞬で粉々。熱風にあおられ、二人は地面を転がった。




 その光景に俺はおにぎりを持ったまま硬直する。

おいおい、おにぎりのチョイスくらいのんびりさせてくれよ。

とりあえずさっさとおにぎりを買ってしまおうと、おにぎりを両手に持ってレジへ向かおうと歩き出すと、黄色いキャップをかぶった女性が会計待ちだった。




 外の様子にきをとられて店員さんもその女性も外を眺めていて会計が進む気配が全くない。つまりおにぎりが買えない。

すると女性がこっちをちらっと見て、「やべっ」という顔をして店員さんを急かしてくれた。会計を終わらせたかと思うとこっちを見て「すいません」とお辞儀したかと思うと、不思議な声とともにスポットライトが俺と女性を照らした。




これはまさか!選ばれるのかいよいよ!

 

『勇気ある者よ、汝を選ばん――』





 頭の中に直接、重厚で荘厳な声が響く。




 胸がドクンと跳ねる、ゴクリと生唾を飲む。思わず前に出かけた。が、光は一瞬揺らぎ……俺を素通りして正面にいた女性を包んだ。


 


「私!?……わかったわ。やればいいんでしょ?」



 迷いのない声。



「東雲 美咲、いきます。正義は撃ち抜く――サンシャイン・チェンジ!」


 黄金の光が彼女を包み、黄色いスーツが輝く。キリッとしたポーズ。

……いや、いやいや、俺じゃないんかい。ここまで前フリ完璧だっただろ。




「新メンバーだ!」


「これで形勢逆転です!」



 赤と青が歓声を上げ、三人で突撃。の蹴りが怪物を押し込み、赤の炎と青の光が援護する。

 おお、さすがに三人揃うと迫力あるな……と思った瞬間。


「グオオオオッ!」


 怪物の巨腕がブンと振るわれ、三人まとめて吹っ飛ばされた。陽翔くんは壁に叩きつけられ、澪ちゃんは地面をゴロゴロ、美咲さんも咳き込みながら立ち上がる。




 そして、その尾がしなるように振るわれ――俺の方に。




「大地!?」


「危ない!!」



 ヒーローたちの声。でももう遅い。尾が直撃する。


 ……はずだった。




 ドガンと音が鳴ったが、俺は無傷で立っていた。

……ん? 当たったよな今? え、全然痛くないんだけど




 俺もヒーローも怪物も、揃ってポカン。沈黙の三秒。


 気づけば俺の拳が動いていた。反射で振り抜いた拳が怪物の顔面にクリーンヒット。


 

 !?!!?

 



 ゴウン、と金属バットで看板を叩いたみたいな音。巨体が浮いて、そのまま吹っ飛んで行った。ヒーローたちが唖然としている。やべ、反射的にやっちまった。




「......はっ!い、今よ!」



 黄が叫び、銃口に光を収束させる。




「サンシャイン・バーストォォ!」



 閃光が怪物の胸を貫き、黒煙を吹き上げて倒れ込む。




 ……戦闘終了。


 コンビニの外は静まり返り、通行人たちが遠巻きにこちらを見ている。

 俺はまだ拳を見下ろしたまま、戦隊になれなかったことを静かに悔やんでいた。

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