第3話 誇りとピンポン体操
「まだエルフの娘なんかとつるんどるんじゃないだろうな、お前は」
モラハラジジイ。
祖父が入居している老人ホームに会いに行ったら、一声がそれ。
ドワーフの祖父は引退するまで土建の会社を経営していた。東京の地下に巨大なトンネルを通した話を毎回聞かされる。
「あのさ、祝ってくれるのは嬉しいんだけど……斧はちょっと──困るよ。常に持ち歩けって手紙に書いてあったけど、確実に捕まるからね?」
「あれはいい斧だぞ。なに、バレたらウチはドワーフの家系だ! って警察に言ってやればいい」
それが嫌なの!! とはさすがに言えない。言わない。
私はこの人とは違ってモラルはある。
「……斧を持ち歩いてる女子高生なんて周りにいないよ」
「斧はドワーフの誇りだ。成人したなら一つは持っておくべきだ」
「私、まだ16」
「ドワーフだったら一人前の大人だ」
「戦う相手なんていないから! 今は中世じゃないよ!」
この爺さん、こんな化石みたいな考え方で本当に大丈夫なんだろうか?
「……本当にそう思っているのか?」
え? 祖父は大真面目に聞いてきた。
「本当に、今は戦わなくていい時代だと思っているのか。かな子」
「やだな、真面目な顔して。怖いよ、おじいちゃん」
あはは、と笑って誤魔化そうとするが、祖父は真面目に語り続ける。
「ドワーフの斧は蛮族の斧ではない。ドワーフの斧は誇りを守るための斧だ。自身の尊厳は必ずに守らなければならない」
テレビボードの引き出しを開ける祖父。
そこには使い込まれた斧があった。
「──もしお前の尊厳と誇りを傷つけようとするものが現れたとき、お前の斧は自身を助ける。怯むな。斧を掴んで振り回せ」
「そんなに、大事なのかな? 斧を振り回すぐらいその、誇りとかって…」
「大事に決まっている。お前たちは忘れすぎだ」
祖父ははっきり言い切った。
「………」
灰方さーん。ピンポン健康体操の時間ですよー。ホールに集合してくださーい。施設のスタッフが入口から呼びかける。
「──持ち歩くのが嫌ならしょうがない。だが、かな子。覚えておけ。心には常に斧を持て。いつでも振りかざせるようにな」
祖父はそう言い残してピンポン健康体操をするために部屋を出ていった。
家に帰ったその晩、寝る前に机の上に置かれた鈍く光る斧を見る。
ずっしりとしたその存在にそっと手を触れる。
「つめたい・・・」
その日、かな子は夢を見た。
自信を傷つけようとしている悪漢に斧で立ち向かう。
かな子はその斧を振り回し敵を──。
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