第2話


学校の椅子は座るたびに呻くような音を出す。

机も同じように当てにならない。

しかし机の木目は几帳面であった。

木の葉の揺れで風の流れを読んだり、

机に着陸した羽虫の進路を妨害してやるのが、

勉学、研究、学友・レナードとの交流よりも

優先されるべき重要な仕事となっていた。

今日はレナードが欠席しているため、仕事が

さらにはかどった。





時間が経ったので、学校から流れた。

今日はあまりいい日ではなかった。

まず学校での唯一の友人が欠席で、

太眉肥満、ニワトリ顔、陰険のあの男が相変わらず全日出席の健康体であること。

転んで膝を強く打ちつけたこと、

何よりそのことをニワトリ顔に笑われたこと。

学校への不満の殆どはニワトリ顔への不満である。

そのことをオスカルは誰よりも強く理解している。

(そのため学校の教師や唯一の友人は、

ニワトリ顔・ジョンの名前を極力

出さないようにしている。

そうすれば目の前のオスカルは

優しい人間であった。)

川を通り過ぎたので、あと十分で家に着く。





この川はあまり面白味がなかった。魚も少なく、

特別きれいなわけでも、

壮大な汚さを持っているわけでもなかった。

しかし、その川でなぜか、

老人が溺れようとしている。

見間違いだと思っていると、老人が鳴いた。

老人は男だった。近くに人はいない。

近くの工場に助けを求める時間はない、と思った。

どうするか、上手いやり方を考えようと、

何も考えつかない。

ロープの類を探す時間を

減らしただけということになった。

老人はしぶとかった。

ボートに置いてあったロープを探すのに

五分はかかったと思うのだが、なんと生きていた。

ロープを投げた。

「おい、捕まれ、クソじじい。」

「力込めろ、若者の努力を無駄にするな。」

と叫びたかったが、救助される老人の姿が不思議と哀しかったために言うことができなかった。


「助けたもらい、ぁりがといござうまじ。」

「あたはなぃののの恩人です。」

老人がお礼を言ってきたものの、その半分は

聞き取ることができなかった。

「ここがゎしたの住しよです。いつでもも

ぃしてくだだい。かんげします。」

貸した紙に貸したペンで住所が書かれていたが、

所々左右反対になっていたり、線が

異様に震えている箇所があった。

おかしな老人が何かやって

溺れたのだろう、とは思っていた。

しかしここまでおかしいとは。

老人はこれまでどんな日々を生きてきたのだろう。

楽しかったのか、辛かったのか。どうにせよ、

老人は低い腰で頭を下げ川を後にした。

レナードの家に寄るつもりだったが、

それはもはや叶わない。

帰宅の時刻が遅れたことの説明について

考えなければならなかった。












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