蝋の馬
@LooooAsy5638
第1話
とても大きな馬が鳴いていた。
脚が折れてもう走ることのできない馬だった。
しかし、鳴き声は以前大きいままであった。
少年と女は成人した男より、当然劣っている。
オスカルが父親に教わった初めての言葉だ。
父親は工場の経営者であった。
そう思っているなら雇わなければいいものを
父親は少年と女ばかり工場に入れた。
低賃金で酷使させ、何か失敗を起こすたびに罵声を
上げた。鞭で叩くことも少なからずあった。
父親は家においてはひどく温厚だったのだが、
十才の頃仕事の勉強のため初めて工場を尋ねる日、
父親は獣になっていた。
この父親の内面にあったものを、
十年間気づけなかった。
意味もなく悔やんでいる。
通学の時刻が過ぎていることに気づいた。
高等学校への道は工場地帯である。
煙によって雲は上へ上へと押し除けられていた。
空に嫌気をさした帽子が、靴と共に地面との会話を試みている。
「、ザッ、ザッ、ザッザッ。」
「、タタ。タ、タ、」
労働者がイギリス語を話すことは少ない。
たまに口を開いても、謝罪の言葉だった。
彼らは足音を言語として用いる。
朝の足音は重い。労働への絶望と体の不調が組み合わさると、鈍い音を発することができる。
それに別の労働者が返す。こうして足音が少しずつ増えていくのが、彼らにとって会話が生まれたということになる。オスカルはそう考えた。
オスカルの足音も大概重かったが、誰からも足音が返ってくることはない。
工場経営者の息子だからだ。
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