第3話
揺れた文字で書かれた住所に辿り着いた。
ドアを叩き、けっこう待ってから老人が来た。
「まあ、いらしたのですか。どうぞお茶でも。」
老人はあの日より遥かに裕福そうに見えた。
「つまり、あなたはあそこの工場で働いてる人?」
高等学校について説明するのが面倒だったので、
適当な嘘をついた。
「ちょうどその帰り道であなたを見つけたんだ。」
「へぇ、じゃ、私は相当幸運な人間だった、
ということ!長年の信仰が遂に報われた。」
「しかし、なんで川で溺れていたんですか?
岸から遠く離れた所で。
落とし物を拾っていたのですか?」
「いや、違う。仕事のために川に入ったんだ。」
「どんな仕事をしていたのですか?」
「いや、仕事じゃない、お金は貰えないんだから。あれは任務と言うんだった。」
聞いてみても余計分からなくなった。
「何のための任務でしたか?」
「それはよく分からない。でも、リーダーが
すごい目で“君にしか頼めない任務なんだ”と
言ってくれたんだ。だからやった。」
「リーダー?経営者や社長じゃなく、リーダー?」
「うん、リーダー。私の入っている
仲間たちの団体のリーダー。あ、そうそう。
メンバーを勧誘して来いって言われた。」
「ね、団体に入らない?」
急に団体と言われ戸惑ったのは、オスカルが
工場従業員団体以外の団体について
何も知らなかったからでもあった。
想像がつかないのだ。
「急に言われても、よく分からない。
一体その集団とはどんなものなんですか?」
「なに、そんなに怖いものじゃないよ。」
「工場で働く人たちの権利を守る団体だ。」
そう言われた時、何か背中から寒気がした。
「今、労働者、特に女性や子供が工場の経営者や
資本家によって搾取されている。と聞いたんだ。」
「そいつら“泥棒側”を憎む労働者たちでつくられた団体だ。恨めしい泥棒たちを根絶やしにする。
それが団体の目標。」
この老人は、父親のことを憎むだろう。
父親は悪辣な工場経営者だからだ。
その憎しみは、私にまで及ぶこともあるだろう。
この老人は私がそういう身分の男の
息子であることを知らない。
窃盗被害者が何か紙を取り出した。
「これが私たちの団体の主な目標だね。」
なんと、まず団体は世襲、後継といったものが
大嫌いらしく、王室に対しても批判していた。
やはり工場においての後継も例外ではなかった。
しかし、それよりも政府に対する批判の強さの方が
気になってしまう。
税金、社会保障、法律、あらゆる点で
批判に批判が重ねられていた。
おかしいのは、こんな強い主張を持った紙を
礼をしなければならない客に出している老人だ。
「この団体の理念に興味を持ってくれた?」
正体を伝えたら、一体どんな顔をするだろうか。
オスカルは老人のことを面白がりながら、
軽蔑していた。
「ま、そう簡単には決められないだろうからね。
私たちは今はほとんど使われなくなった工場を
拠点にしてる。団体に入りたくなったら一度家までよろしく。リーダーと私たちが歓迎するから。」
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