第4話 魔毒
「ハア、ハア……ァガァッ……!」
「セーヴァ……!」
「これ、触ってはなりませんニルヴァ。毒が移ったら大変です」
「うう……っ」
毒に侵されて大きく腫れあがった右足が痛むのか、苦しそうに呻き続けるセーヴァ。
腫れあがった足は紫色に変色しており、足指の先から徐々に黒い帯のような跡が出てきている。
毒に詳しくないニルヴァが見ても、とても危険な状態だということが分かった。
「院長先生、解毒の魔法は?」
「これはただの毒ではなく、毒蛇の魔物にやられた『魔毒』の症状です。通常の解毒魔法は試しましたが、この有り様で……」
「魔毒……」
この世界には通常の生物の他に、大気中の魔力を取り込んで凶暴化した『魔物』と呼ばれる生物が存在する。
魔物は人が魔法を使うのと同じように、体内に取り込んだ魔力を使って強力な攻撃を行ない、獲物を捕食する。
セーヴァが侵されている『魔毒』は、古代遺跡などに生息する毒蛇の魔物の攻撃によるもので、通常の解毒方法では治癒が難しい。
実際、マナワットが治癒系の魔法を得意とする院長先生に解毒魔法の使用状況を確認したが、セーヴァが侵されている魔毒には効果がなかったようだ。
「魔毒を治癒するには、相性の良い白の魔石を用いて強力な解毒魔法を発動しなければなりません。しかし、貴重な白の魔石が手に入らないのです」
「魔石屋に行って、お願いして……」
「ニルヴァがいないときにもう行ってきたよ! でも売ってなかったんだ!」
「魔石卸しの商人が来るのは3日後だって……!」
「そ、そんな……」
アルビアク王国内で採掘量が少ない貴重な種類の魔石は、他の国からやってくる魔石商人から購入したり、国同士て貴重な魔石を交換し合う必要がある。
魔毒を治す為には、治癒系の魔法に熟達している人が、相性の良い白の魔石を使って強力な解毒魔法の発動を成功させなければいけない。
しかし貴重な白の魔石が手に入らず、魔石さえあれば強力な解毒魔法が使える院長先生も、これ以上はお手上げ状態だった。
「あ、赤の魔石をいっぱい使ってやれば……」
「ニルヴァよ、強力な魔法というのは、相性の悪い魔石をいくら使っても発動できない場合が多いのです。我々にできることはもう、ひたすら通常の解毒魔法を使い続けてみるか、患部を水で冷やして祈ることくらいしか……」
「そ、そんな……嫌だ! セーヴァが死んじゃう!」
「ニ、ニル……」
「セーヴァ!」
みんなが諦めの雰囲気の中、必死で声を上げるニルヴァ。
そんな彼の声が届いたのか、浅い呼吸と呻き声を繰り返すだけだったセーヴァがニルヴァに話しかける。
「俺は、トレジャーハンターだ……魔物に襲われて死ぬ末路も、覚悟してる……つもり、だったんだがな……」
「セ、セーヴァ……」
「うぐっ……! は、はは……やっぱり、死ぬのは怖えなあ……」
「セーヴァッ! 嫌だ! 死なないでセーヴァッ!!」
「ニルヴァ! 腕に触ってはなりません!」
セーヴァの弱気な発言を聞いたニルヴァは、それでも自分だけは諦めないと、ポケットから赤の魔石を取り出して左手で握り、右手を魔毒に侵されたセーヴァの右足に重ねる。
「毒よ、消えろっ! セーヴァから消えて無くなれっ!!」
「赤の魔石でうまくいくわけねーだろ色なし!」
「何も魔法が使えないお前がやっても無理なんだよ!」
赤の魔石を使って解毒魔法を発動しようとするニルヴァを、周りの子供たちが無駄な事だと怒鳴りつける。
相性が悪い上に、なにも魔法が使えない『色なし』のニルヴァ……もちろん、魔法は発動しない。
「はあ、はあ……ニル、もういいから……お前まで、毒が……」
「毒よ治れっ! 解毒しろっ! お願いだから、セーヴァを、助けてっ……!」
ニルヴァの行動を、誰もが無意味だと諦めていた。
ニルヴァ自身も、大切な人が苦しんでいるのを見て、諦めたくないと必死になって何かをしていたかっただけで、本当に魔法が使えるとは思っていなかったのかもしれない。
それでも……奇跡が起きた。
シュワアアアアアアアアアアアッ……
「……えっ?」
「な、なんですかこの霧は……!?」
「あ、足が……っ」
セーヴァの右足に触れていたニルヴァの手から白い霧のようなものが出現し、セーヴァの紫色に腫れあがった右足を包み込む。
しばらくして霧が晴れると……そこには、いつもの褐色肌に戻ったセーヴァの右足があった。
腫れはまだ残っているが、先ほどまでの紫色に変色し、黒い帯状の跡が出ていた足ではなくなっていた。
「毒が……抜けた?」
「ニルヴァが、解毒魔法を……?」
「や、った……治った……セーヴァの足が治った!!」
「ニル、お前……」
「うわああああああんっ! セーヴァああああああっ!!」
「ははっ……お前が泣くのかよニル……っ」
魔法が使えない孤児少年、ニルヴァ。
毒に侵されたセーヴァを解毒することに成功した彼の、左手に握られていた赤の魔石は……魔力がまったく減っていなかった。
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