第3話 得意・不得意



「うう、重い……」



 ある日の夕方、水汲み当番になったニルヴァは、大きな水瓶を背負ってえっちらおっちらとオアシスからの帰り道を歩いていた。

ニルヴァたちが暮らしているアルビアク王国の砂漠地帯は水が貴重で、水道のような設備も整っていない。

そのため、寺院で使っている水が無くなったら近くのオアシスまで汲みに行く必要があるのだ。



「だから無理をするなと言った。ニルヴァは肉体強化魔法が使えないから、もっと少ない量じゃないと大変」



「そ、それはそうなんだけど……」



「次からは、ひと回り……いや、ふた回りは小さい瓶にする」



「うん……」



 両手で抱えられるくらいの水瓶を背負ってなんとか歩くニルヴァの横で、自分の身長よりも大きな水瓶を頭に乗せて軽々と運ぶ赤髪の少女。

彼女の名前はマナワットといい、ニルヴァと同じ寺院で暮らす孤児の一人だ。

マナワットは肉体を強化する魔法が得意で、普通の大人が二人がかりで運ぶようなものも、魔法を使えばマナワット一人で持ち運ぶことができる。



「マナワットはすごいなあ。そんな大きな水瓶、ぼくが頭に乗せたら押しつぶされちゃうよ」



「わたしだって、魔法が使えなかったら同じ。たまたま、体を強くする魔法が得意だっただけ。苦手な魔法もいっぱいある」



「得意な魔法があるだけマシだよ……」



 魔法は人によって得意・不得意があり、火を扱う魔法や水を操る魔法が得意な人もいれば、マナワットのように肉体の強化が得意な人もいる。

また、魔法を発動するときに使う魔石の性質にも相性があり、たとえば火魔法を発動する場合は赤の魔石を使うと効率よく発動できるが、青の魔石を使って火魔法を発動すると相性が悪いので、ちょっと発動しただけですぐに魔石の中の魔力を使いきってしまう。



 だがしかし、得意な魔法どころか、ひとつも魔法を使えないので苦手な魔法すら分からないニルヴァは、羨ましそうにマナワットが頭に乗せている水瓶を眺めることしかできなかった。



「本当は、水魔法が得意だったらよかった。オアシスまで水汲みにいかなくても、魔法で水を出して皆からチヤホヤされる」



「水魔法は、得意な人が少ないもんね……」



 魔法の得意・不得意や魔石の流通具合は、生活する地域の環境によっても変化する。

ニルヴァたちが暮らす、砂漠と岩とオアシスの国・アルビアク王国では赤の魔石がよく採れ、青の魔石は珍しい。

そしてそんな環境で生活しているアルビアク人は、昔から火魔法が得意な人が多く、水魔法は苦手な人が多い。



「ニルヴァは、どんな魔法が得意だったらうれしい?」



「なにも出来ないから、なんでもうれしいと思うけど……やっぱり、土魔法かなあ」



「やっぱり。セーヴァと同じがいいんだね」



 ニルヴァの兄貴分であるトレジャーハンターのセーヴァは、土魔法が得意である。

粘土を変化させて固まらせ、鍵の形にして宝箱を開けたりもできるので、トレジャーハンターと相性が良い魔法と言えるだろう。



「セーヴァ、今日は寺院に来るかなあ」



「また遺跡に行ってくるって、おととい来た時に言っていた。もしお宝が見つかって、可愛い首飾りがあったらわたしが貰う約束をした」



「え~! いいなあマナワット。ぼくもなにかお願いすればよかったな……」



 そんな感じで、意外と強欲な子供たちが水瓶を運んで寺院に戻ると……なんだか寺院の前が騒がしかった。



「なんだろう、なにかあったのかな」



「新しい子が来た、とか?」



 ニルヴァたちが暮らす寺院は、アルビアク人が信仰する太陽神ラーワッドに礼拝する為の施設であると同時に、親を失った子供たちを受け入れる孤児院としての役割も担っている。

そんな寺院が騒がしいということは、ニルヴァたちの仲間が増えるのかもしれない。あるいは……



「院長先生、ただいま帰りまし、た……」



「ガッ、グァアッ……!」



「……セーヴァ?」



 水瓶を一旦置いて寺院の中に入ると、そこには横たわったセーヴァを介抱する院長先生と、その状況を不安そうに眺める子供たちがいた。

セーヴァはとても苦しそうに呻いていて、右足が通常の3倍くらいの大きさに腫れあがっている。



「な、何があったの……!?」



「セーヴァが古代遺跡で毒蛇の魔物に噛まれました。今夜がヤマかもしれません」



「……えっ?」

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