第2話 命の恩人
「それでは、寺院にお恵みくださる心優しき人々と、我らアルビアクの民を見守ってくださる太陽神ラーワッド様に感謝し、いただきましょう……ヴァルファナ・アッシファ」
「「「ヴァルファナ・アッシファ!」」」
ニルヴァが急いで料理を作り終えると、寺院で暮らす孤児たちが大食堂に集まり、待ちに待った食事が始まる。
院長先生が食事を始める際の挨拶を行なった後、古代アルビアク語で『健康と癒しをもたらす食事を』という意味の『ヴァルファナ・アッシファ』と唱え、一斉に食べ始める。
「ど、どうかな……ちゃんとできてる?」
「んー? まあまあだな」
「そ、そっか」
本日の料理当番として食事を作ったニルヴァは、正面でひよこ豆のコロッケを食べている男子に感想を聞いた。
彼は先ほど、ニルヴァの代わりに魔法で火をつけてくれた男子だ。
せっかく助けてくれたのに、これで料理が不味かったら……と思っていたニルヴァは、まあまあだと言いながら料理をガツガツと勢いよく食べる男子を見て安心した。
「もぐもぐ……お、このムタッバルは美味いな! ナスの焼き加減が絶妙だぜ。腕を上げたなニル!」
「本当? えへへ……ありがとう、セーヴァ」
ニルヴァの隣で焼きナスのペーストを美味しそうに食べているのは、セーヴァという男だ。
彼は寺院出身の元孤児だが、今は大人になってトレジャーハンターをしながら一人暮らしをしている。
今でも定期的に故郷の寺院に帰ってきては、トレジャーハンター業で稼いだお金や食材を寄付してくれている。
「それにしても、俺が拾ったときのニルはまだこ~んな小っちゃかったのになあ。いつの間にか大きくなって、こんな美味い料理が作れるようになって……俺は嬉しいよ」
「セーヴァ、それひよこ豆だよ。さすがに赤ん坊のときでも、そんなちっちゃくなかったと思う……」
セーヴァはニルヴァの名付け親であり、命の恩人でもある。
セーヴァがトレジャーハンターを目指していた子供の頃、初めて入った古代遺跡の中で小さな揺りかごに入った赤ん坊のニルヴァを見つけ、寺院に持ち帰って保護したのだ。
「今日は魔法使えたのか?」
「ダメだった……結局、代わりに火をつけてもらっちゃった」
「そうかそうか、まあそんな日もあるさ。大切なのは続けることだからな……ズズッ。おっ、このレンティルスープも美味いな!」
「これセーヴァ、音を立ててスープを啜ってはいけませんよ」
「おっといけね、ひとりの時のクセで……すいません院長先生!」
「ふふっ」
昔と変わらない調子で院長先生に怒られているセーヴァを見て、ニルヴァは思わず笑ってしまう。
物心ついたときからずっと、セーヴァはニルヴァにとって兄貴分のような存在だ。
幼いニルヴァに寺院での過ごし方やこの国の生き方を教え、魔法が使えなくても大丈夫なように世話をしてくれた。
彼は、ニルヴァが魔法を使えなくても『色なし』のような悪口を言ったりはしない。
何か出来れば自分のことのように喜び、失敗したら『そんな日もあるさ』と笑い飛ばしてくれるのだ。
「セーヴァ、最近はずいぶんと多く寄付をしてくれていますが、自分の生活は大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ院長先生! 実はあまり人が立ち入っていない古代遺跡を見つけて、そこで魔石をガッポガッポ稼いで調子が良いんです!」
「遺跡ですか……セーヴァ、くれぐれも無茶はしないように。古代の遺構は無の魔石の復活も早く、数も多く採れますが、その分危険な魔物が多い場所もあります」
「分かってますよ、院長先生!」
魔法を使うための魔石は深い森や険しい岩場、古代遺跡などで採ることができる。
特に遺跡の中は大気中の魔素が濃く、使い終わった無の魔石を置いておくと魔素を吸収して魔力として蓄え、元の色付きの魔石に戻るのだ。
セーヴァはトレジャーハンターなので、古代遺跡を含む様々な場所を探索して宝物や遺物を探し、魔石もあれば採るようだが、中には街で使い終わった無の魔石を集めて遺跡に置きに行く仕事や、魔力が回復した魔石を遺跡まで回収に行く専門の仕事をしている人も多い。
「ぼくも、遺跡で宝探しやってみたいな……」
「火おこしの魔法も使えないニルヴァには無理だろ!」
「魔物に食われて死んじまうぞ~!」
「うう……」
「これ、食事中にやめなさい」
遺跡に行きたいと言ったニルヴァを馬鹿にする子供たちと、それをたしなめる院長先生。
しかし、実際のところは院長先生も今のニルヴァには危険すぎて無理だと思っているし、ニルヴァ自身も分かっているだろう。
「ニルも遺跡探索に興味を持つ年頃か……」
ニルヴァは、赤ん坊のときに遺跡の中で放置されていたことをセーヴァや院長先生から聞かされて知っている。
だからこそ、いつか自分が放置されていた遺跡を調べてみたいと考えていた。
「大丈夫だニル。お前がもう少し大きくなったら、俺がトレジャーハンターの先輩としてついていってやるよ!」
「セーヴァ……うん!」
「今はひよこ豆くらいだから、ソラ豆くらい大きくなったらな!」
「だからそんなにちっちゃくないってば」
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