腐前:土曜日
今日もハローワークへと向かう。
照りつける太陽に焦がされながら最寄り駅へと急ぐ。ふと、途中にある小学校に目をやると校庭へ出て体育をしているようだ。
すると一人の男の子が赤と白のリバーシブルになっている帽子の紐をしゃぶっているのか目に止まる。しょっぱいよな、あれ。でも自分の汗、いや努力の結晶が染み込んでいるのかもしれない。味わいながら苦いとこを見つけて「あ、これはリレーで転んだ時の……」「こっちはハードルにつまづいた時の……」とか言っちゃったりして。
つまらない妄想にふけていると乗るはずだった電車の時刻を一、二分すぎていた。
最初に「今日も」と言ったがあれは嘘だ。
こうやって時間を潰して、電車が行っただとか適当な言い訳をして実際は向かわない日の方が多い。それでも俺は「今日も」と言う。家からは出ているし、向かってはいたし。そしてちゃんと行く日もある。毎週月、火曜日は行くと決めているのだ。そして今日は土曜日だから行かなくてもいい日。
とにかく今日も時間をひたすら無駄にしながら過ごす。夕方になるまで暇を持て余す。これが俺のルーティーンとかカッコつけてみようとしてもやってることはカッコ悪い。
スマホを手に取ると不在着信の通知が来ている。どうやら高校時代の友人からのようだ。こいつとはもう四、五年ほど連絡をとっていない。とりあえず電話をかけ直しみることにした。その途端、聞こえてきたのは興奮気味の友人の声。懐かしむ隙も与えず飛び込んできた声。「俺、子供できた……。パパになったんだよ!」歳を重ねるごとに周りは結婚だの、子供だの煩い。黙って元同級生の電話を切り、スマホから目を離して目に付いたコンビニでビールを買い、近くにあった公園のベンチで缶ビールの蓋に手をかける。
プシュッと言う音と共に何かが吹っ切れたとかいう在り来りな物語を信じ込む。
すると小さなガキが母親と思われる薄汚い俺とは正反対の真っ白なブラウスを着た女の袖を引っ張りながら俺を指さして「まま、あのおじさん何してるの?」
とし純粋さに浸された質問をぶつける。母親は見ちゃいけませんと言わんばかりに次母親がガキの腕を引っ張る。周りに目をやると冷たい視線が自分に向けられてることに気づいた。当たり前だ。昼過ぎの公園でニートが酒を飲んでいるんだから。 俺でもそんな奴いたら鼻で笑う自信がある。今の自分は滑稽という言葉そのものだ。
でも俺はもう慣れてしまった。改めて慣れというのは恐ろしい。俺はそのままベンチで夕方まで眠り、何事も無かったかのように公園に響くガキ達の声に手を振り、家へと帰った。
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