第5話 転生後の遺体の行方
放課後に担任の猛林先生に呼ばれる。
下の名前は勇子。
強そうな名前だけど、身長は自称150センチの小さい人である。
たぶん、もっと小さい。
あだ名は『モーちゃん』
そんなみんなのマスコット系なモーちゃんに呼ばれたけれど、用があるのは彼女ではなく、その隣にいる静丸先生の方だった。
普段は先生なんて付けない。
呼び捨てで十分だ。
去年の姉の担任だ。
「尾羽莉奈からなにか連絡はあったか?」
「……いえ」
静丸からの問いに、目をそらして答える。
奴の僕を見る目は、まるで汚物でも見ているかのようだった。
エリート思考の強い静丸は、自分の担当したクラスから失踪者が出たことを気にしているって噂だ。
その噂を証明するかのように、僕を見る目は鋭い。
「ふん、どうせ上京して遊び呆けているんだろう。ドロップアウトするなら、自主退学してからにしてほしいものだな」
「静丸先生! そういう言い方は問題です!」
「ふんっ! 猛林先生も気を付けるんですな。こいつだって同じことをするかもしれませんよ」
聞きたいことは以上だと言わんばかりに、静丸は去っていく。
「はぁ……ごめんね、尾羽君」
「いや、いいです。あの男にはそういうの期待してないんで」
「ははは、だよねぇ。はぁ……」
「先生こそ、すいません。僕のせいで」
「……尾羽君は大人だねぇ」
「え?」
「君が苦労してそうなのは、そういうところから滲み出てるよね。まぁ、大変かもしれないけど、なにか相談事があったら私に話してね。なにかできるわけじゃないかもしれないけど、話すだけで楽になることもあるから」
「ありがとうございます」
「ははは、君が大人ならビール片手に愚痴を聞いてあげられるんだけど……」
「え? 先生って外でお酒飲めるんですか?」
その身長で?
「……尾羽君」
「やだなぁ、冗談ですよ」
「大丈夫よ。ちゃんとそのために運転免許証だって持ってるんだから」
「そのためにって……」
ガチの返答は、それはそれで次の言葉に困るなぁ。
「うん?」
「え? なんです?」
モーちゃんが、急に鼻を動かすと、僕に顔を寄せてきた。
「尾羽君、なにかいい匂いがするね」
「それは、どうも」
「柔軟剤? なんだか嗅いだことのない匂いだね。なにこれ?」
いや、それ……パンツの匂いです……なんて言えない。
「貰い物を使ってるんで、よくわからないです」
「そうなの? ふうん」
「ええと、これで終わりなら帰りますね」
「はい、お疲れ。気を付けてね」
モーちゃんに見送られて職員室を出る。
はぁ、やれやれって感じだ。
モーちゃんも静丸も、そして他のみんなも、もう姉が亡くなっているなんて思ってないよな。
さらには異世界転生しているなんて、わかるはずもない。
そして、姉がどうやって死んだのか……そのことを覚えていないことも。
姉は前後の記憶がまったくないと言っていた。
異世界転生の定番だとしたらトラックにでも轢かれたか、あるいは突然の心停止なんだろうけど……トラックが女子高生を轢いたなんて事件は起きていないし、ただの心停止で死んだなんていう女子高生の話も聞いたことがない。
身元不明の女子高生の遺体があって、最近に失踪届を出した姉の情報があれば遺体の確認とかの連絡があってもいいだろうけど、そんなものは来ていない。
母親が警察の連絡を無視している可能性もあるけれど、だいたいの連絡先は団地に設置してある電話の番号が書いてあるはずだから、やっぱり姉の遺体は見つかっていないってことになる。
突然死や事故なら、遺体が見つかるべきじゃないか?
それなのに見つからないということは、誰かが隠した?
姉は、誰かに殺された可能性があるってことになる。
ここまでは姉との話し合いで結論が出ている。
犯人探しをして欲しいかと聞くと「いま楽しいから問題ない。アキヤも自分の人生を楽しんで」という答えだった。
「アイテムボックスでまた話せるようになったんだし、この機能で使えることがあったら使っていいから」
と姉は言う。
まぁ、僕が姉の立場でもそんなことを言うかもしれない。
だけど、もしもここ……学校のどこかに姉を殺害した人間がいるのだとしたら?
学校じゃなかったとしても、犯人がなにも知らない顔でどこかで幸せに暮らしているんだとしたら?
それってムカつくよね。
探すべきかなと思わないでもない。
だけど、どうやって探せばいいかもまだわかっていない。
ただ、探すならいまからの方がいいよな。
姉のクラスメートがまだこの学校に残っているうちに、話だけでも聞いたほうがいいかもしれない。
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僕の部屋がアイテムボックスになった件 ぎあまん @gearman
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