第4話 パンツの性能と学校と



 クラフト区画でデカデカイモムシを解体した時に出た繊維袋で糸を作り、生地を作り、そこからさらに他の材料を足して、服を作った。

 姉の下着である。

 下着を弟に作らせる姉。

 なにか色々と考えさせられるな。

 きっとこいつ、まだ彼氏いないなとか。

 まぁ、ブーメランが襲ってくること確定なので言わないけどね。

 今回は個数指定だったのでその数だけ作ったのだけど、材料が余った。

 なので自分の下着も作ることにする。

 余り素材なのにトランクスとインナーシャツのセットが三組できた。


 なんていうか、質量の限界とか、なんかそういうものを飛び越えた先を見ているような気がする。


 そしてもう一つ。


『男性下着セット:【清潔維持】【芳香】【対物理攻撃+1】』

『男性下着セット:【清潔維持】【芳香】【魔力補正+2】』

『男性下着セット:【清潔維持】【芳香】【ゴブリン種特攻+1】【速さ補正+2】』


 クラフトすると、なんかこんな風にスキルが着くんだよね。

 最初二つはデフォルトで、三つめがランダム要素っぽいんだけど。

 四つめが付いているのもあるし。

 なんだろう……なんだろう?


 さらにスキルの解説を見ることもできる。


『【清潔維持】:付与対象の清潔さをある程度維持する。あくまでもある程度である。過信はだめ、絶対』

『【芳香】:なんかちょっといい匂いがする』

『【対物理攻撃】:物理系攻撃からのダメージを軽減するぞ』

『【魔力補正】:ステータスの魔力による判定に補正効果』

『【速さ補正】:ステータスの速さによる判定に補正効果』

『【ゴブリン種特攻】:ゴブリン種への攻撃に対して追加ダメージ』


 わかってないふりをしたいけど、まぁ、わかってはいる。

 こっちは姉の知識が使える状態だからね。

 クラフトには、熟練の技術によってアイテムそのものから引き出される潜在スキルと、ランダムで付与される偶発スキルというのがある。

 僕の男性下着セットの場合、【清潔維持】と【芳香】が潜在スキルで、残りが偶発スキルということになる。

 で、この潜在スキル、たぶん全部出し切っている状態だよね?


 それってつまり?


「なぁ、姉ちゃんって実は、RPGラストバトル前ぐらいのステータスだったりする?」

「う〜ん? 主人公が同じナンバリングタイトルがあったとして、1をクリアして2に入っているんだけど、なぜかレベルを下げられるっていう理不尽がない状態かな?」

「うん、わかった」


 同じようなことなのに、どうしてそんな変な言い直しをしたのか。

 いや、人生はゲームのようなエンディングはないとでも言いたいのか?

 やかましいわ。


 とはいえ、魔道学園で大人しく学生をしていたわけではなさそうということはわかった。


 前も言ったけど、僕のクラフト能力は姉の知識や経験にリンクしている。

 同じ素材を使ってもレベル1とレベル100だと作れる個数や性能が違うみたいな、なんかそういうシステム的な物理の限界突破を見た気がしたんだけど、そういうことなんだな。

 で、潜在スキルも全部出るし、偶発スキルも出てくると。

 うん、わけわからん。


「まぁいいや。んじゃ、学校に行くね」

「は〜い、いてら〜」


 アイテムボックス内の作り置きで朝食を済ませようと入ったら、姉に色々頼まれてしまったので、それを済ませてから自分の部屋に戻ることになった。

 顔を洗ったりとかはもう済ませているので、おにぎりと味噌汁を食べて、制服に着替えて学校に行く。


 色々やってたけど、当たり前だけどまだ時間に余裕がある。

 アイテムボックスと時間の関係は理解が難しい。

 中は時間が止まっているけれど、僕は活動ができる。

 そしてクラフト関係では、いろんなアイテムを媒介してだけど、時間が進んでいるような変化を見せる。

 だけど時間は止まっている。

 そして、僕が中にいる間は、僕の世界の時間も止まっている。

 時計を確認してから自室のアイテムボックス領域に入って用件を済ませて出てみると、一秒も過ぎていなかった。

 これは何回繰り返しても同じなので、僕がアイテムボックスに入っている間、現実世界の時間が停止していることは確定している。

 逆に、僕の主観的な姉の時間は、僕がアイテムボックスに入っている間にしか進んでいないような気がする。

 つまり、姉にとっての僕は常にアイテムボックスの中にいることになっている。

 さっきの僕の「学校に行ってくる」という発言も、姉にとってはたとえすぐにアイテムボックスを開けても僕はいるということになるはずだ。


「摩訶不思議」


 その呟きを残して、出かける。

 僕が通うのは私立千館高校。進学高校としては県内二番目くらいだと思う。

 姉も同じ高校だった。

 いまの母親の男が「千館行くぐらいなら学費を出してやるよw」と言ったので、勉強をがんばった。

 男気がどうとか〜とか言うタイプなので、自分の言葉は引っ込めない。

 嫌いだけど、学費分くらいは感謝する。

 返せるようになったら返すつもりだけどさ。

 なにで儲けてるんだかよくわからない人だから、それまで母親の男として繋がっているかどうかもわからないっていう危険性もあるけど。


 僕のいる桐郎市の駅から電車で三十分。

 そこから徒歩で十分くらいの場所にあるのが千館高校だ。

 2ーBの教室に入る。


「おはよう」

「おはよう」


 飛び交う挨拶の中に僕の言葉も混ぜてから席に着く。

 二年に上がった時に一年の時に仲が良かった連中と離されてしまったので、いまだに話せる相手が定まらない。

 同じような感じで暇そうにしていた隣に話しかける。


「おはよう。宿題やった?」

「ええ。終わらせているけど」

「数学の宿題でわからなかったところがあるんだけどさ……」


 やや戸惑った様子の隣の彼女……ええと、名前は堂城香澄どうじょうかすみだ。

 実際に宿題でわからなかったところがあったし、堂城さんは賢そうなのでそのまま話を続けていく。


「あそこってわかった?」

「ええ? 見る?」

「あ、ほんとに? ありがとう」

「いえ」


 堂城さんは気まずそうな顔で視線を机に戻した。

 手にしているのは文庫本かな?

 読書の邪魔をしては悪いので、宿題のチェックをそそくさと済まし、返す。


「ありがとう、たすかった」

「いいのよ」


 そっけないやり取りで終了し、時間を持て余した僕は堂城さんについて考えた。

 彼女はとても美人だ。

 黒絹のような髪に切長の凛々しい瞳、芸術家が妥協なく理想の線を求めたかのような頬から顎のライン。

 読書する横顔だと長いまつ毛がよくわかる。


 そんな美人さんなので、去年の入学時には話題になったし、同じクラスになって喜ぶ男子も多かった。

 それは二年になったいまも同じ。

 一年生の頃は男子からのアプローチと告白合戦がすごかったらしい。

 そこら中で男子から声をかけられ、そして付き合ってくれと言われていたのだとか。

 だけど、彼女はその誰も選んでいないし、友人もいない様子だ。

 男性と付き合わないのには理由があるらしい。


 理由その一。

 彼女は内向的なのかあまり他人と話さない。

 さっきの僕とのやりとりのような簡単なものならともかく、雑談のような類となると硬い態度になって話が続かなくなる。


 理由その二。

 通学時のお迎えの車が高級車であること。

 すっごい威圧感のある外国産の高級車が通学時に学校の前に現れて、堂城さんを送り出したり迎えたりしている。

 家からの鉄壁ガードが男子たちに校外でアプローチする機会を奪っている。


 理由その三。

 婚約者がいるという噂。

 告白した男子たち全員への断り文句が「婚約者がいる」というものだったらしい。


 そういうわけなので「堂城さんは遠くから愛でるもの」という共通認識が生まれている。


「なぁ、さっき、堂城さんと話してたよな?」

「なに話してたの?」


 一時間目が終了した後の休憩時間。

 トイレから出てきたところで、クラスメート二人に捕まった。


「宿題見せてもらっただけだよ」

「なにそれ?」

「くそう、やっぱ隣の席だとそういう特典があるのかよ」


 ちなみに、普通なら学年が上がったばかりなのだし、出席番号順に席が決まるようなものなんだと思うけど、うちの担任は速攻で席替えを強行し、くじ引きの結果、僕は堂城さんの隣になったのだった。


「ていうか、尾羽ってなんかいい匂いがしない?」

「え? そう? ……柔軟剤とかの匂いじゃない?」

「そうなのか?」


 もしかして、これが【芳香】の効果か?


 そんな感じで、新しい友達ができるかな? と思いながらその二人と話したりしながら学校を過ごした。


 放課後、担任に職員室に来るように呼ばれた。

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