第4話 キスまで至らず

 下校時にはグラウンドの横を通る。今日も野球部が練習している。県大会はいつも上位に入ると聞いたことがある。校長室の前にはトロフィーがいっぱい飾ってあるもんね。


 バックネットに近づいた時、マウンドを見ると、あ、昨日の彼だ。ちらっとこっちを見た時、帽子に手をやり、ちょっと頭を下げた。

 覚えられている?

 真っ赤になって走りだすと、こけてしまった。彼は、マウンドから降りてきて、横で立つのを手助けしてくれた。

 膝すりむいてるね。といって水道の蛇口でハンカチを濡らしてちょっとついた土を払い落としてくれた。

 ドキドキしてたので、ありがとうも言わずに帰ろうとしたら、

「赤チンぬってね」

っといわれ、私は真っ赤になってうつむいて駆けて帰った。


 翌日は、膝にバンドエイドを張って登校。ひりひりするわけでもなく、痛くもない。血はすぐに止まったし。


 彼、気にしていなかったけど、教室が同じだったんだ。近づいてきて、膝を見て、「大丈夫?」

 今日は言える、

「昨日はありがとうございました」

 周りの目が集まる。

彼はさっさとせ席に戻るが、私はドキドキが止まらない。お近づきになれるだろうかとよこしまな思いが頭の中をめぐっている。


 春の県大会、これが彼の高校生活最後の試合になる。気合を入れて応援に行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る