第12話「悪役たちの断罪」

 エレオノーラがカイウスのプロポーズを受け入れたことで、事態は急展開を迎えた。

 グランツ王国は、隣国の王子に恥をかかされた上、王太子が犯した数々の愚行を突きつけられ、もはや反論の余地もなかった。アルフォンスとリリアナ、そして敗走した騎士団は、アークライト王国の監視のもと、すごすごと王都へ帰還することとなった。

 王都に凱旋するはずだった彼らを待っていたのは、民衆の冷ややかな視線だった。

 カイウスが暴露した真実は、あっという間に王都中に知れ渡っていたのだ。国を守っていたのは聖女ではなく、追放された悪役令嬢だったこと。聖女は偽物で、王太子はそれに騙されていたこと。すべてが、民衆の知るところとなった。

 手のひらを返したように、非難の矛先はアルフォンスとリリアナに向けられた。


「国を危機に陥れた愚か者め!」

「我々を騙していたのか、この偽聖女!」


 王城では、国王主催の緊急審問会が開かれた。アークライト王国の大使としてカイウスも同席する中、アルフォンスとリリアナの罪状が次々と読み上げられていく。


「王位継承者としての判断能力の欠如、虚偽の報告に基づく一方的な断罪、そして、隣国への武力侵攻と見なされかねない独断専行……」


 アルフォンスは、もはや何の反論もできず、ただうなだれるばかり。

 一方のリリアナは、最後まで往生際が悪く喚き散らした。


「私は騙されていただけです! 悪いのは、私をそそのかしたエレオノーラ様ですわ!」


 しかし、彼女の懐から、カイウスが言っていた魔力増幅の魔道具が発見されると、彼女もついに観念したのか、泣き崩れた。

 判決は、迅速に下された。


「元王太子アルフォンス・レ・グランツを、王位継承権剥奪の上、北の辺境地への永久追放処分とする!」

「リリアナを、王家に対する詐欺及び国家反逆罪として、終身、塔への幽閉を命ずる!」


 あまりにも厳しい、しかし当然の結末だった。アルフォンスは廃嫡され、二度と王都の土を踏むことは許されず、リリアナは光の差さない塔のてっぺんで、その一生を終えることになった。

 彼らが夢見た栄光は、自らの嘘と愚かさによって、泡と消えたのだ。

 まさに、自業自得。完璧な「ざまぁ」だった。

 一方、エレオノーラは、カイウスと共にアークライト王国へと渡っていた。彼女の到着は、国を挙げて歓迎された。


「ようこそ、エレオノーラ嬢。息子のカイウスが、大変お世話になったと聞いている」


 アークライト国王は、温和な笑みで彼女を迎えた。カイウスから事前に話を聞いていたのだろう。彼女が元公爵令嬢であることや、その強大な力を、国王も王妃も、ごく自然に受け入れてくれた。

 何よりエレオノーラを喜ばせたのは、彼らが彼女の「家族」である、もふもふ達の存在も認めてくれたことだった。

 王城の広大な庭の一角が、レオンやカーバンクルたちのための住処として提供された。もちろん、魔の森にあるログハウスとの行き来も自由だ。

 数ヶ月後、二つの国の祝福の中で、エレオノーラとカイウスの盛大な結婚式が執り行われた。

 純白のウェディングドレスに身を包んだエレオノーラは、まるで物語のお姫様のように美しかった。彼女の隣で、カイウスは今まで誰にも見せたことのない、幸せに満ちた笑みを浮かべている。


「エレオノーラ、愛している」

「私もですわ、カイウス様」


 誓いの口づけを交わす二人を、民衆は熱狂的な歓声で祝福した。

 グランツ王国で「悪役令嬢」と蔑まれた少女は、隣国で、国を守る「聖女」として、そして、誰よりも愛される王太子妃として、新たな人生を歩み始めた。

 彼女が手に入れたのは、地位や名誉ではなかった。

 ありのままの自分でいられる場所。心から信頼できるパートナー。そして、愛すべきもふもふの家族たち。

 窮屈な鳥かごから飛び立った鳥は、今、どこまでも広がる大空を、自由に羽ばたいている。これ以上ないほどの、最高のハッピーエンドだった。

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