インスタントベター
トーストにバターそれからゆで卵。
外からは心地よい鳥のさえずりと、仕事へ向かう人々。太陽も低いながら、街と私の席も照らしている。鼻腔に香ばしい香りが絡みつく。時間差で届いたアメリカンからは、歓喜の湯気が立つ。2人掛けのボックス席が特等席に早変わりした。
ぱくりとトーストをひとかじり。咀嚼して、珈琲を流し込む。ソーサーにカップを戻す。踊る心を沈めるようにカチャリ、音が鳴った。
店内には私以外にも数名の客が腰掛けている。他のボックス席にはサラリーマン、大学生、年配のご夫婦。狭い空間に違う世界が並んでいるようだ。険しい顔、すました顔、談笑。違う世界なのに、同じ珈琲が並んでいる。同じ珈琲豆からドリップされている。
セットのゆで卵のカラを割る。
パキパキとヒビが広がり、一部落ちる。その時一人退店する。一口かじる。また一人居なくなる。もう一口。二人、出入口をくぐる。
気付けば、店内に私は一人になっている。少しの寂しさとトーストのバターが溶けていく。最後まで食べ切る頃には、寂しさは幸福に変換されている。
新しくまた、一人、二人と店内に新しい物語がやってきた。私のカップは空になっている。気付けば時計は八時四十分を指す。
会計を済ませると、店の扉に手をかけた。外は先程よりも日が強く、キラキラと輝いている。流れる川のように歩く人々の中に、緩やかに足を射し込んだ。
最後に見た、隣の席のカップル。彼らも同じ味を感じ、同じ流れに乗るのだろう。
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