第二話 デジタルの火種
呼び出したのは、あの公園。
昔、取材帰りに二人で夜を明かした場所。
碧「なんで渡した。」
結衣「……碧くんに、止めてほしかったの。」
風が、街の音を切り裂く。
結衣「この会社、もう画面の数字しか信じないの。」
沈黙。
碧は煙草を取り出し、火をつける。
その明かりの中で、彼女が小さく笑った。
結衣「覚えてる? あの頃、約束したよね。
“誰かを救える言葉を書いてくれ”って。
あのときの碧くん、
ちょっとだけ、本気だった。」
碧「……ガキだっただけだ。」
結衣「ううん。
あれ、まだ信じてるの。
私ね、忘れたかったの。
碧くんに会ったら、思い出しちゃった。」
風が二人の間を通り抜ける。
結衣の声が、少し震えた。
結衣「数字の中にいれば、正しい気がした。
でも、碧くん見てたら違うってわかった。
“人”って、まだ信じていいんだね。」
沈黙のあと、碧はつぶやく。
「……もう止まれねぇぞ。全部巻き込むことになる。」
結衣「それでもいい。
だって、もう一回信じてみたくなったから。」
彼女は微笑んだ。
あの頃の笑顔と、同じ角度で。
⸻
6. 炎上の果て
翌朝。トレンドファクトリー内部から大量のデータが流出。
仕組まれた炎上、買われた正義、捏造の同情。
ニュースが世界を駆け抜けた。
碧は賢のモニター前で報道を見ていた。
賢「……内部からのリークだ。けど、発信元は消えてる。」
碧「……。」
⸻
7. 終幕
数日後。
渋谷の交差点、ネオンの下。
碧のスマホに通知。
「1件の新しいメッセージがあります」
開くと、たった一行。
『ありがとう、碧くん。
約束、守れたかな。(・ω・)』
碧はしばらく画面を見つめたあと、煙草に火をつけた。
白い煙が夜空に消えていく。
「……燃えちまったもんは、もう灰だ。」
風が止む。
ネオンの反射が、彼の目に揺れた。
渋谷の夜は今日も、誰かの夢を燃料に光っていた。
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