二
一週間が
わたしは洋人を愛しているの?――と、霰は自分に問うてみる。すると「そんなことはない」という答えが即座に返ってくる。
だけど、問い方を変えてみると、この不在感が
洋人が別のオンナと付き合っていていいの?――その問いに対しては、こんな答えが生まれてくる。
(そんなの、悔しくてたまらないに決まってる)
いつまでも
新しい趣味を見つけようともしてみたけれど、しばらくすると、洋人と一緒にこれをしていたら……などと思ってしまう。
あんな最低なオトコのなにがいいんだ。クソみたいなことをしてきやがって。
そういう怒りが込み上げてきても、「いいところもなくはないし、クソみたいなところも、自分と付き合い続ければ直ってしまうんじゃないか」などと、霰は考えてしまう。
いまだに消すことができない、洋人の連絡先。ここに電話をかけたならば、どれだけ見すぼらしいことだろう。プライドはへし折られて、粉々になってしまうことだろう。
それでも、洋人の不在により生じる苦しみは、洋人で埋めるしかない。そう覚悟を決めて、電話番号をタップした。
何度も繰り返されるコール音よりも速い、心臓のリズム。呼吸が乱れていくのも、はっきりと分かる。
早く出てほしい。そうしないと過呼吸で倒れてしまう。霰は、洋人の声がするのを、苦しい思いで待ち続けた。
しかし洋人が電話に出ることはなかった。
あんなダメなオトコなんかに
(黙ってて! わたしのすることに口出ししないで!)
何度も電話をかける。絵に描いたような、未練たらたらの情けない元カノみたいだ。そんな風に思われるのは、
四回、五回、六回……八回目に、洋人の声が聞こえてきた。
「霰の『あめかんむり』って、八画だったよね。だから、八回目で出てみたんだけど」
(なんだそれ。じゃあ電話がかかってきていたのは、最初から知ってたの?)
霰はその事実に、いまにも大声をあげて泣きそうになった。そして、酷い言葉をいくつもぶつけたかった。
「ぼくがいないとダメなの?」と、洋人は言う。
普段なら、そんな痛々しい言葉には失笑をしてしまうことだろう。でもいまの霰は、
「うん。ダメっぽい」
「じゃあ付き合ってやるよ。ちょうど彼女のストックがないところなんだ」
クズ、最低、消えてしまえばいいのに――という
「うちに来いよ。住所を送るから」
「うん」
「かわいがってやるよ」
「うん」
電話を切った後、洋人から連絡がくるのに、しばらくの時間があった。霰は思わず、もう一度電話をかけそうになった。
すると、それを見越したかのように、決して近いとは言えない場所の住所が送られてきた。
今日、明日、明後日……これから先、たくさん予定があるし、したいことも、しようと誘われていることもあるけれど、それらをかなぐり捨ててでも、洋人のために生きてみよう。
そう決めた霰は、
* * *
大量の本を納めた本棚に囲まれた、二階の部屋に招かれた霰は、どことなく落ち着かない気持ちでいた。
「ひとりで住んでるの?」
「うん、ひとり。二年前に、家族はみんな死んだんだ。なにも言わずに、ぼくだけを残してね。一階の居間でだよ。帰ってきたらみんな倒れてた」
玄関の横にあるのが居間なのだと洋人は言った。それは、ふたりのいる部屋の真下でもあった。
「みんないなくなったけど、小さいときからこの家に住んでるから、取り壊すのが嫌なんだよ。だから、ひとりでもここにいる」
そういう事情があったから、洋人はこんな性格になったのだろうかと、霰は邪推してしまった。すると途端に、すべてのことを
「シャワーを
風呂場に行くには、居間を通るか、仏間から台所に抜けていくか、どちらかしか
「じゃあ、付いてきてよ。ご家族には悪いけど、ひとりで行くのは怖いから」
「イヤだよ。ここに寝転がって、怖がってる霰を感じていたいんだ」
洋人は半裸のまま、
「行けよ。一時間くらいは待っててやるから」
霰は
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