三
居間に足を踏み入れるくらいなら、遠回りをした方がいい。
静寂を破るのは、風に
蚊を追い払うように手を振り、紐を探した。すると、
まだ小学生の頃に、
台所に入ろうというところで、霰はもう足が動かなくなってしまった。引き返そう。そう思ったはいいものの、汗をかいたままの自分を、
だけどここから先、台所に入ることだけは、どうしてもできなかった。なぜかここだけが洋風になっているドアを開いた時、そこに誰かが待ち構えているような気がしたのだ。
そんな霰の耳に、竹藪の戦ぎの中から、「入れ……入れ……」と言う女性の声が忍び入ってきた。その声を聞いてすぐ、霰はもうなりふり
* * *
部屋に戻った霰が目にしたのは、中央の
「どうしたの……?」
先ほど、ドアの前で聞いた声のことといい、目の前の洋人の姿といい、不気味なものを見聞きするのが続き、霰は身構えてしまった。
月光を受けて
洋人は、なにかを考えている様子などなく、しばらく、ただ
「いや……どうしようもなく、寂しくなってきてね」
霰は洋人の横に腰をかけると、
「この家にひとがいると、そういう気持ちになることがあるんだ」
洋人は、なにも言わずに霰を押し倒して、その上に
「いいよ、めちゃくちゃにしてくれて」
小鳥は、小鳥に生まれたことにより、自然と
それと同じように、霰はその言葉を、自然に、宿命のように口にしていた。
霰は洋人の背中に手を回し、彼の胸の中から離れないように、手放されてしまわないように、強く強く抱きしめた。
もしくは、死の気配が消え失せない一階へと、落ちてしまわないようにと。
求めあう営みに
その頃、幽霊がひとり、竹藪の中を
* * *
夜明けの空気は、月夜のものより寂しく
眠っている洋人の腕から抜け出して、窓のカーテンを開けた霰は、朝四時の月の美しさに心を打たれた。星の見えない中、雲間に現れてはまた消えていく月。
巨人でさえ捕まえることを
彼に求められ続けて疲れ切った身体と、彼の身体を感じながら切なくなった心。この一夜のうちに、霰の心身は、制圧され、占領された。彼と同じ色と
霰には、洋人の魅力が分かっている。少なくとも、分かっている気がしている。
それは、生と死を
(この人に守られたいし、この人のことを守りたい)
凪いだ朝は、冷え切った空気を眠らせている。まるで風景画のようにも見える目の前の景色に感傷を抱きながら、霰は洋人のことを、そして二人の今後のことを、
この家の一階は、まるで死んでいるかのように、完全に沈黙している。
その時、後ろの竹藪が、風もないのに
その鳥は、地上に眼をやることなく、顔を上げ、空に
肌寒くなりベッドの上に戻った霰は、洋人に気付かれないように、彼の胸に唇を押し当てた。
〈了〉
寂莫を払って 紫鳥コウ @Smilitary
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