第14話 必然の再会
午前5時。
薄暗かった世界に光が忍び込み、街の輪郭を徐々に描き出す。
朝靄が撫でていった木々の葉は朝日を反射させ、大木をガラスの樹に変えていた。
人気のない横断歩道。
鳥の囀りが響く外堀通り。
突然現れたコーヒースタンド。
全てがまるで演出されたかのように完璧な朝。
スタンド横のテーブルで一人ロイヤルミルクティを飲んでいる。
ーーこんなところでこんなに美味しいお茶のスタンドに出会えるなんて。
見たところキッチンカーのように移動式ではないようだ。
ーー良かった。朝の散歩の楽しみがまたひとつ増えたわ。
嬉しくてつい顔が綻ぶ。
すると突然背後から声がした。
「何を飲んでいるの?」
驚いて振り向く。
朝日をバックにしていて顔が陰になっているが白い歯だけがやけに目立つ。
その人は微笑んでいた。
誰?
日差しが一瞬雲に隠れその人の顔が露わになった。
彼だった。
数日前にカフェで席を譲った男。
ほんの30分話しただけの男。
そして風のように去っていった男。
その男が今、目の前に立っている。
こんな早朝の外堀通りで。
こんな偶然に。
でもなぜか驚きはしなかった。
全く驚かなかったかといえば嘘になるが、驚いた次の瞬間まるでそうなることが見えていたかのように自然なことに思えた。
私はカップを手に、テーブルに頬杖をつきながら彼を目だけで見上げている。
すると彼が問いかける。
「驚かないんだね。こんな偶然ありえないのに」
彼が向かいの席に座っていい?と私に目で問いかける。
私は眉を上げてーーどうぞと即した。
彼はスツールを引いて腰をかける。
「そうは言いつつ僕も驚いてはいないよ。なんだか君にはまた会えるような気がしていたからね」
そう言って私をまっすぐ見つめた。
「で?何を飲んでいるの?」
彼が問いかけたが私には聞こえていなかった。
澄んだ瞳…。
誠実そうな光を宿した目で私を見つめる。
ーーこの人はいったいなんなのだろう?
出会った時のジゴロのオーラ。
あれは偽物ではない。
確かに感じた、その手の人種特有の香り。
まとった黒い翳り。
その辺の遊び人とは違う孤独の影と、そこに反射するナイフのような非情さ。
彼は飢えているジゴロだ。
でも今、目の前にいる彼は?
本当に同じ人なのだろうか?
その人にはその人なりのまとうオーラがある。
いくら別の人格を演じようとも隠し切れるものじゃない。
その人が個人である限りその人の人間性というものはちょっとしたことで透けて見えるものである。
しかし彼には…まるで彼が二人いるかのように全くもってガラッと違う。
ーーなぜなのかしら?
取り止めのない思考の迷宮に飲み込まれていると意識の彼方から声が聞こえた。
「何を飲んでいるの?」
彼の声に我に返る。
「ロイヤルミルクティよ」
私は旧知の知人にでも言うようにサラッと伝える。
「君も好きなの?」
君もというところを見るとやはり彼は好きでロイヤルミルクティを飲んでいたということか…。
さて、どうしたものか?素直に答えるべきか?適当なことを言ってお茶を濁そうか…。
すると先ほどの彼の誠実そうな瞳が脳裏をよぎる。
「先日、ロイヤルミルクティを飲んでいる人に会ったの。なんだかとても美味しそうに飲んでいるものだから私も飲んでみたくなったのよ」
嘘ではなかった。
でもあなたのことだというには少し図々しいような気がして、曖昧な表現をとった。
「そうなんだ。で、君はその美味しそうなロイヤルミルクティに興味を持ったの?それともその飲んでいた人に興味を持ったの?」
私は正直に答えた。
「両方よ」
to be continue…。
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