第12話 朝の外堀通りにて
朝の光が聳え立つビルのガラスに反射してキラキラしている。
夜が明ける。
外堀通り。
柔らかい光が朝の通りを包んでいる。
まだ人通り少ない歩道。
シンとした空間にシグナルだけが青と赤の点灯を繰り返している。
朝の空気は澄んでいる…。
本当かしら?
でもそれがただの思い込みだとしても私は朝の空気が好きだ。
どこがどう好きかなんて聞かれても分からない。
感覚的に好きだということだ。
普段の私は無駄がないので、論理的だと思われるが意外に感覚的だ。
好きなことをいちいち説明できるほど論理的には生きていない。
昨夜のことを思い浮かべる。
カフェで席を譲り、隣り合った男。
ブラックコーヒではなくロイヤルミルクティーをオーダーした。
そしてクリスマス前のはなやぐ街をただジッと見つめて一言
クリスマスは好きですか?
と聞いてきた男。
他愛のない会話の後、突然席を立ち連絡先だけ置いて駆け出して行った。
少し気になった。
突然出て行ったからと論理的に考えるより、なんとなく心に引っかかるといった感覚的な方がしっくりくる。
いつもはヒールの音も高らかに颯爽と歩く街も、今朝は思考に耽り歩調も緩くなる。
虎ノ門ヒルズの少し手前に可愛いコーヒースタンドが店を開けていた。
熱くて苦いエスプレッソが飲みたい。
スタンドに立ちオーダーしようとすると、メニューの中にロイヤルミルクティーがあることに気がついた。
なんとなく思い立ち、反射的にロイヤルミルクティーをオーダーした。
バリスタの動きを目で追う。
意外にもちゃんと茶葉から抽出している。
フレンチプレスの柿渋色の海の中に茶葉が上下している。
ティープレスとミルクピッチャーをそれぞれ両手に持ち、カップめがけて勢いよく同時に注ぎ込む。
ミルクと紅茶が混じり合いカップの上で伽羅色になる。
ーーロイヤルという名前に似合わずこうも豪快に淹れるものなのかしら?ーー
しかしカウンターに飛び散った跡も無く、出来上がったミルクティーを見てもカップは綺麗なままだった。
豪快に見えてもちゃんと繊細に作られているのだ。
カップを受け取り手のひらで包む。
スタンド脇のチェアに座り一口飲む。
優しい甘さが広がる。
ミルクのさっぱりした甘味がそう感じさせるのだろう。
時折飲むロイヤルミルクティーは甘さが強すぎて私はあまり好きではない。
飲んでいるうちにお茶が冷えだすと余計に甘さが強調されて、途中で嫌になり最後まで飲み切った事はない。
しかし、本格的に淹れるとこうも繊細で優しいものになるのだと知った。
あのカフェのロイヤルミルクティーもこんな優しい味がするのだろうか…
彼はそれを知っての上でオーダーしたのだろうか?
また彼への興味の種が増えてしまった。
一人の男を無意識に想うなんて初めてのことだ。
少し戸惑い、朝の通りをみつめる。
しかし彼女はこれが恋愛初期特有の揺れ始める心の変化だとはまだ気がついていなかった。
To be continue…
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