第11話 幻想からの開放
きらめく朝日が瞼をくすぐる。
目を開けると窓越しに10月の真っ青な空が広がっている。
裸で眠ってもまだ寒くない季節。
昨夜、俺はカーテンを開けて眠った。
これだけの高層階。
並ぶ窓は無く覗かれる心配もない。
もし覗かれても何も困ることはないが…。
人は朝日を浴びると体内時計がリセットされて規則正しい生活ができるらしい。
何も規則正しい生活をしようと思った訳じゃない。
ただ今朝はなんとなくそうしたいと思っただけだ。
眩しい太陽と青い空に誘われて、シーツを抜け出す。
何も身に纏わないまま窓際に立つ。
床から天井までガラス張りの大きな窓。
窓の向こうには麻布台のビル群が見える。
俺の住んでいる三田付近は高い建物があまり無いためちょうど麻布、六本木あたりのビルがパノラマに見渡せる。
俺はこの景色が好きだ。
時に妖しく、時に絵画のように、またある時はハリボテのように見える都会の街並み。
その見え方の違いで今の自分がどんな状態なのかなんとなく感じることができる。
ーー今朝はどうだろう?
ーーなんて爽やかな朝だろうーーそう思う。
いつも昼前まで眠っている俺がなぜそう感じるのか…
昨夜の女性の顔が浮かんだ。
浮かんだ瞬間なぜか少し寂しい気持ちになった。
もう少し思い出してみる。
柔らかそうに曲線を描き流れる長い髪。
スッと伸びた背筋。
カップを口元に運ぶ仕草。
思い浮かべるほどに胸の辺りに焼け焦げたような苦味が走った。
少し感傷的になった気持ちを薄めようとコーヒーを淹れにキッチンに立つ。
落ち着きを取り戻そうと豆をハンドミルに入れ無心に回した。
ケトルでお湯を沸かしフィルターをドリッパーにかけてリンスする。
挽き終わったコーヒー豆をドリッパーに移しお湯をかけて蒸らす。
30秒待ってケトルからピッチャーに移したお湯を静かに注ぐ。
サーバーからキリッとしたブラックな香りが立ちのぼり鼻腔を刺激した。
カップを持ってリビングへ移動しソファーに腰を沈めて窓の外を見つめる。
これまでの女性が記憶の淵から浮かび上がってくる。
これまでと言っても全ての女性を思い出せる訳じゃない。
ほとんどワンナイトの女性たち…
最初はそれなりの人が集まる出会いの場を利用していた。
しかし見た目は清楚であったりエレガントな女性でも一皮向けば一般的な女性が少しでも良い条件の男を求めて、無理をして入会してくることがほとんどであった。
それならマッチングアプリでも変わらない。
むしろその方が出会いの裾野が広がると言うものだ。
しかし気軽に利用登録ができて気軽に会うことができる分、割とその手の目的の女性も多い。
会えばすぐにベッドに行きたがった。
男も女も同じ人間。
そうでない女性も何となくや気が合うからという理由ですぐに付き合いたがる。
付き合うつもりも何も無いがインスタントに体の関係になれるこの状態に溺れるのは意外に早かった。
女も男と変わらずやりたい時はやりたい生き物なんだとつくづく思い知った。
幻想から解放されてからの俺は貪欲にただやることだけを追い求めた。
高級クラブに行くのはやめ、マッチングアプリに切り替えてからはほとんど入れ食い状態だった。
自己スペックや生活上の条件は申し分ないだけに多い日は三人と会うこともあった。
やることをやるだけなら高級クラブもマッチングアプリもそれほど変わりはない。
ただそれだけのことだった。
To be continue…
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