第10話 感じたシンパシー

「少し強気に言い過ぎたかしら…」


一瞬そう思ったがそれは事実だ。

なぜ出会ったばかりの男にそんなことを言ったのか…

自分でも不思議だった。


ほんの30分ほど前にたまたまカフェの隣の席を譲っただけの男。

窓の外に広がる街の喧騒を眺めていた。

ーー私も一緒に眺めていたのだろうか?ーー

私だけがそう思っているだけではないかしら…

でも全く縁もゆかりもなく隣り合った人と見えない気持ちが繋がる瞬間が確かにある。

滅多に感じることではないが、それをふれあいと呼ぶのだろう。

一種のシンパシーを感じたのは確かだった。


そして一瞬交じりあった瞳

あの温かみはなんなのだろう?

ジゴロだとばかり思い込んでいた、その隙をつくような温かなまなざし。

あれは演技なのだろうか…

いくつもの疑問が浮かんでくる。

しかしそれは決して私を嫌な気持ちにはさせない。

それは焦ったい訳ではなくむしろ私は少しワクワクした気持ちを感じ嬉しくなる。

こんなに興味を駆り立てる男に出会うのも珍しい。


コーヒーカップの底が見え出した。

ーーそろそろ退散どきかしらーー

少しだけ寂しいような気がして隣をチラッと見る。

彼のロイヤルミルクティも底をつきかけていた。


ーーそうだ…別れる前に聞かなくてはーー

「どうしてロイヤルミルクティなの?あなたにロイヤルミルクティは似つかわしくないわ」

言って少し後悔した。

なぜもう少し素直な物言いができないのかしら…。

男に散々迷惑をかけられて来たのはわかる。

しかしそれに準じて自分まで性格を悪くすることはない。

そんなことを時々思うが、自分に鎧を着せることが常になった今では少しきつい物言いがデフォルトになっていた。


男は何やらソワソワと窓の外を見ていたが、私の問いに瞳を輝かせ

「それが知りたければまた今度…僕の連絡先を教えておくよ」

そう言って連絡先を書いたカードを素早く私に差し出した。

咄嗟のことに私は思わずカードを受け取った。

すると彼は

「きっと…また会えるよ」

そう言って優しい微笑みを私に投げるとスツールを降り、ギャルソンに向かって一言二言会話をするとなぜか店の裏口へ向かった。


ーーなぜ裏口かしらーー

また一つ疑問が増える。

狐に摘まれたような気持ちのまま残りのコーヒーを口に運ぶ。


ガラスの外を見ると、緑のワンピースを着た女性がイライラした様子でカフェの中を覗き込んでいる。

一瞬目があったがすぐに彼女の方から逸らせた。

ーーなんだかすごく怒っているわーー

彼女をそんな気持ちにさせる人はどんな人かしら…

無意識に先ほどの男を思い浮かべたがすぐに打ち消した。


To be continue…




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