第9話 ずっと話していたいと思うほどの女

この物語はフィクションです。



「誰かがいなくても行きたいところへ行き食べたいものを食べる。自分が望むことをしたいのなら至極当たり前のことじゃないかしら?」

彼女はそう言い切った。


本当に本心からそう言っているのか?

そうだとしたら俄然興味が湧く。

容姿は完璧だ。

それに加えて内面が自立している女性。

もし本物だとしたら天然のブルーダイヤより希少価値があるだろう。


女性の自立と言っているがその実、それを本当に望んでいる女性は少ない。

男を落とすのは可愛さであるとDNAレベルで信じ込んでいる女性の如何に多いことか。


DNAレベル。

まさにそうだ。

気に入った男の前では声色が変わることさえ気がつかない。

それは無意識が神経を伝達して声帯に作用させる一種の技だ。

中身の無い女性はそう言った無意識の技を次から次へと発動させる。

それが自分の薄さを白日の元に晒していることさへ気付かずに。


可愛いだけじゃダメですか?

そうダメだ。

可愛さの上に積み上げられた常識、教養、洗練がギャップを生む。

可愛さを自覚しているならそこで止まっているだけではダメだ。


その逆も然りで、強いだけを演出する女性は理論武装で固められて隙がない。

なので会話を楽しむ余裕もなくひたすら海外マーケットやトレンド展開など、言葉遊びとは程遠いカラカラの乾いた会話に終始しがちだ。


言葉でのコミュニケーションはいわば前戯のようなもので、お互いのくすぐったいところを探り合い軽く攻めることから始め徐々に官能の波を高めていく大切な行為だ。

それはとてもエロティックで扇情的だ。

会話がうまい人となら寝たくなるが逆にもっと楽しみたいという欲望がその機会を先延ばしさせ、待ち遠しいものに変える。

そんな風にお互いを大切にする気持ちがその後の関係をいかようにも変化させてくれる。


そんな可能性を秘めた女性と出会えたのかもしれない。

そう思ったら自分らしくもなく胸がときめく。

この後どういった展開でことを進めればいいか。

滅多にないこのチャンスをものにするために今までの経験をフル動員して駒の進め方を考える。


するとガラスの向こう、人混みの中に一人の女性がキョロキョロと群衆の中に誰かを探しているのが見えた。

弾かれたようにスマホを見る。

LINEの通知が山のように入っていた。


ーーしまった。

目の前の女性に夢中になっている間にもともと待ち合わせていた女性の存在などすっかり忘れていた。

ーーどこにいるのよ!もう30分待ってるのよ!

ーーもう「私を当てて」なんて言わない。グリーンのワンピースを着ているわ。早く出てきて!

グリーンのワンピースっていま、キョロキョロしているこの女性じゃないか?

むこうは僕の顔を知っていると言っていたがこんなガラス張りの真ん前で紅茶を飲んでいても気がつかないものだろうか?


そう思ったが、まだ気づかれないうちに早く退散するほうが良い。


さて、目の前の彼女をどうしようか…?

そんなことを考えて一つ閃く。


彼女とお茶を飲んでいてかれこれ30分以上は経っているということだ。

その間僕が話しかけても席を立たずに会話をしてくれている。

その上とびきり極上の素敵な会話だ。

どうでも良い相手となら適当にあしらって話もしないだろう。


彼女も楽しんでいるということだ。


プレイボーイの自惚れでもあながちハズレじゃない。

そう思って彼女に連絡先を渡そうとしたその時、彼女の方から


「どうしてロイヤルミルクティーなの?」

『??何が…??」

「あなたが飲んでいるものよ。正直に言うけど似つかわしくないわ。それを選んだわけが知りたいのよ」


渡りに船とはこのことだ。

僕はチャンスは逃がさない。

「それが知りたければまた今度…。僕の連絡先を渡しておくよ」

呆気に取られながらも僕が手渡したカードを受け取った。


「ごめんね。今夜は取り込み中だから僕はこの辺で退散するよ。また今度…きっと会えるよ」

そう言うとスツールから滑り降り、人の波をかき分けてギャルソンに店の裏口を聞く。

そこから店の外へ抜け出した。


To be continue…

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