第4話 風のような男

このお話はフィクションです。


男が少し慌てた様子で店内に通じる扉へ向かって行った。

すわっ…席を立とうと思ってバッグにハンカチをしまう。

立ちかけて入り口を見る。

男は入り口で立ち止まり扉に手をかけたまま店に入ってこようとしない。


不思議に思い少しの間その動向を見つめる。

ガラス越しに男の顔が見えた。

透明なガラスの向こうで男の顔が歪んで見える。

いや、ガラスのせいではない。

よく見ると男の顔にどこか切なげな表情が浮かんでいた。

自分でも気が付かないのだろう。

少し苦悶の色をブレンドした…。


どうしたのだろう?

私の今までの苦い経験からすると、男は店にズカズカ入ってきて注文もせず私のテーブルに来る。

さも昔からの知り合いという顔で軽薄な笑いを浮かべながら夜の街へ誘い出だす。


私が無視するか少し怒った顔をすると冷やかすようにその笑い顔を深め余計にこちらににじり寄ってくる。

うんざりした顔で帰り支度を始めると途端に険しい顔になり強引に腕を取ろうとする。

私は店内という状況を利用して周りの避難の目を男に集める。

「チッ」と舌打ちをしながら男が店を出る。

待ち伏せされても困るので店員に別の出口を教えてもらいそこから店を後にする。

それまでのやり取りを見ていた人なら大体があまり知られていないで入り口や従業員通路など案内してくれて無事に脱出することができた。


男が入り口の扉に手をかけて立ち止まった時間。

それは時間にしてほんの20秒くらいのことだったかもしれない。

しかし私には長い時間のように思えた。

そして何故か胸が痛んだ。

同情?いや、彼のことは全く知らないではないか。

同情する材料などこれっポチもない。


しかし何故か気になった。

いつものテンプレートと違う展開に気持ちに少し余裕が生まれる。

男が先ほどまでと違った「挑む」ような顔つきで店内に入ってきた。

そのままオーダーカウンターへ向かう。

私は慌てて正面に向き直った。

目の前のウィンドウには夜の街に反射して店内が映っている。


私は景色を見ているふりをしながら男の動向を注意深く見ていた。


ティーポットとミルクピッチャーを持つバリスタが見えた。

どうやら「ロイヤルミルクティー」をオーダーしたらしい。


ーーふーん。イメージから程遠い注文にまたも肩透かしにあう。

大体がブレンドのブラックを注文する。

この手の男にとって何を飲むかなんて重要じゃない。

ブレンドのブラックをオーダーしておけば無難だし一応格好もつく。

それよりその小道具を持って話しかけにくる方がよっぽど重要だからだ。


ーーロイヤルミルクティか…


そのチョイスに果たして意味があるのか…。

もしあるのならそれを小道具にどういったことを仕掛けてくるのか?

そもそも私が自意識過剰なだけで、ただ単純に「ロイヤルミルクティ」が飲みたかっただけなのか?


ブラックな雰囲気を纏った男とロイヤルミルクティ。

続きが知りたかった。


to be continue…

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